推しの子:サンデーS 2024/05月号2024/03/26




 連載開始時から描きたかったエピソードのひとつです。どれくらい描きたかったかというと、この回のための作画資料として二年前からおでん缶を買い込んでました(笑)。コミカライズをやらせてもらえることになったとき、私からのお土産としてかごめちゃんにおでんを届けてあげたくて。できればお母さんの手作りをタッパーに入れてとわちゃんに持たせたいところでしたが、さすがにそれは無理があるので缶詰に。


 高橋留美子先生の中では、『犬夜叉』の後日譚として「かごめが現代に里帰りする」という選択肢はないとのこと。「犬夜叉と生きていく」と決意するラストシーンは「現代での生活を全て失い二度と戻れない」と知った上での選択で、だから我々の胸を打つんですね。したがってコミカライズでも家族の再会はNGです。ただ、私は残された家族を我々ファンに重ね「かごめや犬夜叉たちとまた会いたい」という視点から物語を始めたため、なんらかの形で心が通じ合うシーンは必要でした。

 で、第一話の時点で荷物の設定を「草太のリュック」にアレンジ。実際に描けるかどうかはともかく、おでん缶とビデオメッセージが入ってることはそのときからの確定事項でした。草太が準備してたということにすれば慌ただしく戦国時代に行く流れの中でも必要な物資が揃いますし、彼のヨリシロとしても機能しますからね。今回無事に回収し日暮家のシーンを描くことができて、仕上がりは高橋先生にも喜んでいただけました。かごめちゃんの誕生日は犬夜叉と出会った日であり物語が始まった日なので、それを祝福して感謝するという一連の流れは我々ファンの思いをかごめちゃんと高橋先生に伝えるメタなメッセージでもありますね。



 コミカライズ版におけるりんママのキャラはここで完成したと思います。アニメ版は御伽噺プロット上の「母」としての役割をメインに作られてたので、コミカライズでは『犬夜叉』からの足取りを表現することに主眼を置いた独自の新規りんママ像を模索してました。前出の「くいしんぼう」「少女っぽさ」「天然嫁」には手応えがあって、でも何かもう一押しなんだよな・・・と考えてたところに、今回の「娘たちですら推しちゃう可愛い母上」で決定打。「今作では母親だから、母親らしく」という意識をいったん忘れ、それぞれが独立したキャラ同士として自由にセッションさせてみたら、娘の方が「あーもう可愛いなあ母上は!」「いい子いい子、母上♡」と、りんちゃんファンとして動いてくれたのでした。映画でたまにある「任せるからアドリブで好きにやってみて」と俳優に丸投げするパターンですね。『犬夜叉』を見て育った夜叉姫の主演声優さんたちに丸投げしてもこうなったんじゃなかろうか・・・知らんけど。

 切り口としてはだいぶ私の作風に寄っててるーみっく的ではない気もするんですが、「りんちゃんはみんなに愛でられてこそりんちゃん」というのが、野生のいちイヌヤシャーロキアンとしての私の解釈・結論です。


 後半酔っぱらわせたのは場の空気を切り替えるためでしたが、それが思いのほかうまく機能して、彼女のキャラを立てた上に周囲の想いも描写できました。ついでに夢の胡蝶の最後のアレンジ設定も無事回収。御伽草子時空とはいえ、子供の可愛い盛りに親子が引き離されるというのはやっぱり辛くて、コミカライズではなんらかの形で埋め合わせたかったのですよ。で、「せつなの眠りを奪う」を「喜びを奪う」に変更したついでにこの設定も採用。それでご母堂さまに協力していただいてた次第です。御母堂さまは作劇上のワイルド・カードとして、もうめっちゃ助けられてます。



 というわけで、企んでいたことが一気に開示できた楽しい回でした。隅沢さんにも今回の組み立てをめっちゃ褒めてもらいましたよ。ちなみに、ゼロから物語を立ち上げた隅沢さんのご苦労は、たぶんなんですけど私が一番良く理解できてるんじゃないかと思います。私はそれを後から漫画用に再構築してるだけ、しかもボスは事実上高橋留美子先生のみというシンプルな環境なんで、私の方こそ「ここはこういう理由でこうなさったんじゃないですか、わかります。大変でしたねえ」と隅沢さんを労いたい。完結したらいっぺん飲みに行きましょう。


 さて、次回からはいよいよラスボス麒麟丸・妖霊星との対決編に突入です。もうしばらくコミカライズ夜叉姫たちにお付き合いください。

 


あれからのそれから:サンデーS 2024/04月号2024/02/27



 犬夜叉チーム総登場&紫織さん大活躍の最新単行本第6巻、発売中です。


 飼い猫が年明けに手術・入院などしており、バタバタしててブログ更新を休んでました。ていうか猫が心配すぎて忘れてました(;´∀`)。まあそもそも自作を解説とかヤボなんですけど、「ネットに少しでも情報を増やすことで宣伝したい」という健気な思惑でやっております。もうとにかくきっかけはなんでもいいから、このコミカライズ読んで欲しい。うちの猫の医療費のためにも。


 さて、アニメ観てた方には見覚えがありつつも微妙に違う形で、是露さまが片付きました。アニメでの是露の屈折や理玖との関係をそのままやるとページ数が膨大になりすぎるため、例によっていくつかのセリフやパーツを共有しながら単純化して、独自に再構成したコミカライズバージョンです。理玖のセリフ「この姐さんには」は、「コミカライズ時空の是露は」という意味。つまり「アニメも観てね!」ってことですね(笑)。


 ちなみに私が読ませてもらったシナリオでは「理玖が刀を構えて躊躇っているところに、是露が自分からつらぬかれる」となってました。完成版は演出段階でそこを端折ってて、状況が一段階シンプルになりテンポ良くなったのと引き替えに、二人の心の機微がちょっと見えにくくなってたように思います。だいぶ大人っぽい流れではあるんで、キッズアニメとしての判断でしょうね。で、そこら辺を踏まえ、コミカライズでは隅沢脚本オリジナルのニュアンスも拾いつつ、でもあくまでも理玖の意志でという決着に。


 話数が十分な上に一話に入る情報量が多いアニメとは違い、内容を圧縮しつつ月刊連載で少しずつ進むコミカライズ。犬夜叉夫妻とりんママとの真の再会は、流れとしては幻と会話してから2エピソードなんで、意外と早かったですね。妖怪退治の単発エピソードをもうひとつふたつ挟んでおきたかった気もしますが、構成のコンパクトさを優先。


「『るーみっく御伽草子』の世界に、犬夜叉たちに会いに行く・・・。俺が、コミカライズという形で」を裏テーマとして描いている私には、とわちゃんが犬夜叉・かごめ・りんと直接会うここがたぶん一番重要な場面になります。その次は最後に来る、日暮家とのお別れの場面。麒麟丸や妖霊星との決着までにはまだまだやることは多いものの、そろそろラストシーンも射程に入ってきた感じです。当初から「だいたい10巻程度で完結」を目標に執筆してて、いまんとこちょうどそのくらいで終われそう。まあこういうのは予定よりも少し長くなっちゃうのが通例ですけど・・・あの名作大河少女漫画『キャンディ・キャンディ』って全9巻なんですよね(笑)。なんですかあの密度、完成度は。諸般の事情で手軽に読めなくなってるのが残念でしょうがない。いやまあ、よその漫画の話はいいや(笑)。


 いまはとりあえず次回、家族の再会を全力で描きます。高橋留美子先生を泣かせるのが目標です。無理だと思うけど(笑)


漫画家は年末年始も仕事です:サンデーS 2024/02月号2023/12/30




 「お城」つながりで、アニメの竹千代お家騒動エピソードともひっかけた展開です。残念ながら構成の都合で犬夜叉チームもキッド様も出てきませんが


 「天地返し」がアニメよりも複雑な妖術になってるのは、夜叉姫チームを素早く分断するための都合と、アニメのあの小気味よい音と映像の演出が欠けるぶんを補うため。あとはまあご覧の通りの内容で、是露との因縁に決着をつける話の前振りですね。あ、琥珀と翡翠のせつなに関するやりとりは、アニメの最終回と対になってます。「難攻不落だな」と同情してた叔父上が、ここでは「脈あるぞ、がんばれ」と言うくらいには希望が(笑)。


 犬の大将はオリジナルでの登場が少なく、そのままでは私が動かすための情報が足りないのですが、独自に掘り下げていいのかは難しいところです。ビビって遠慮するとキャラがぼんやりするし、体重を乗せすぎてもオリジナルと離れ過ぎちゃう。とはいえ、是露さまの行動動機はアニメだとかなり複雑な陰影と経緯があって、そのまま漫画に描くと長くなりすぎます。なので、おやかた様の人物像と絡めることでまとめるしかないなと。

 すでに殺生丸や御母堂さま、麒麟丸や是露との関係についてはだいぶ踏み込んでますけど、自分が『天下覇道の剣』『半妖の夜叉姫』見たときに(こういう人物だろうな)と想像した印象をそのままベタに描いているので、当時からのファンのみなさんのそれともそんなに大きく違わない・・・といいなあ。


 私の拠り所は例によって「声優さんの声が聞こえるかどうか」です。大塚明夫さんや坂本真綾さんの声を脳内でアテつつ、しっくり来たらOK。その後高橋留美子先生のチェックに投げたら私の解釈が間違ってたということもちょくちょくあるんですけど(笑)、そこはちゃんと軌道修正してますんで。


 是露さまの衣装が時系列に沿ってきちんと並んでないのはもうしょうがない。最初に理玖の誕生シーン描いたときにはまだ「過去回想では衣装を古風に変更する」という発想がなかったもんで・・「闇堕ちしたときに花魁風にチェンジした」にできてれば、キレイな流れでしたね。

 

 さて、現在私は次のエピソードを執筆中ですが、これがみなさんにお届けする年内最後の『半妖の夜叉姫』となります。できるだけコンパクトに完結するよう頑張ってるものの、ラストシーンまではまだしばらくかかりそうですので、来年もぜひ、漫画版のとわ・せつな・もろはたちにおつきあいください。それではみなさん、よいお年を。


漫画やアニメのトラック、人身事故起こしすぎ問題 :サンデーS 2024/01月号2023/11/27





 意表をついて現代パートからのスタートです。当初はあの時代に南蛮から伝わってきたばかりの「天ぷら」を食べるシーンからと構想していたんですけど、ちょっと舞台に変化が欲しいなと思い直してこのように。天ぷらの歴史ウンチクを語れなかったのは惜しいものの(笑)、懐かしいタタリモッケを描くことで『犬夜叉』世界とのつながりをアピールできたので、まあこっちにして良かったんじゃないでしょうか。


 私の切り口は「へー、ここがあの戦国御伽草子の世界かあ・・!」という、観光客的な目線です。長年の高橋留美子信者である私の目線を、現代育ちのとわちゃんのそれと重ねたわけで、いわばこのコミカライズは私の高橋留美子作品へのラブソング。それが許されたのでこの仕事やってると言っても過言ではありません。でもとわちゃんはもともとそこの住人ですから、いずれ私の手を離れ、帰っていくことになります。


 何度か言ってる気がしますが、これ、昔見た『野生のエルザ』っていう映画のイメージなんですよ。まだライオンの人工授乳飼育にほとんど前例がなかった時代、イギリス人女性が赤ちゃんライオンを保護して「エルザ」と名づけ、ちゃんと育てた上に訓練して野生の群れに戻したという実話を元にした映画。ジョン・バリーの美しく雄大な名曲『ボーン・フリー』が流れるラストシーン、猫のように可愛がられていたライオンが成長し、頼もしくゆったりとサバンナに去ってく姿には泣いた・・・と思ってこないだ見返したら、いろいろ古くなっててそんなにはグッとこなかったですね(笑)。まあ小さい頃の記憶だし。公開当時は大ヒット映画だったのです。


 連載が終わると我々漫画家はキャラクターとお別れするのかというと、たしかに描かなくはなるけど、彼らはずっと作者の中にいるし「うちの子」のままです。でも、他人の版権である夜叉姫たちと私の別れは、たぶんもう少しドラスティックなものになるかなと。



 屍屋・博多店の呂苦兵衞さんはモノクル(片眼鏡)キャラ。オリジナル獣兵衞さんの目の傷に対応させてみました。当時ヨーロッパに眼鏡はすでに存在してて、使っている宣教師に信長は興味津々だったとか。現在のように耳で固定する方式の発明はずっとあとで、この頃は鼻に挟む「鼻眼鏡」でした。モノクルはおしゃれアイテムとして19世紀に流行して、コナンのキッドさまがモノクル使ってるのもその頃の怪盗紳士、アルセーヌ・ルパンのイメージですね。戦国時代にあったのかどうかはちょっとわからないんですけど、考証としてはギリギリ許容範囲かなと。レンズはかなり高価だったはずで、一個なら半額だし。


 例によって別モノな展開にはなってますが、今回も一応アニメの部品をあちこちから集めて、新たにでっち上げた素材を接着剤にして、漫画用に再構成してます。いまやってるのはアニメ2期前半〜中盤あたりですかね。アニメとコミカライズ、お互いをよりいっそう楽しんでいただけると嬉しいです。


戦国のメリー・クリスマス :サンデーS 2023/12月号2023/10/28




 打ち合わせで「大人バージョン琥珀と少年翡翠は実質『夜叉姫』オリジナルキャラなんだし、コミカライズでももう少し活躍してもいいんじゃないか」ってことになり、二人を助っ人キャラに追加することに。


 アニメの琥珀お頭は過去を乗り越えた、安定したパーソナリティーを持つ大人でした。他の旧作レギュラーは当時とあまり変わらないのに対し、彼はほぼ別キャラですね。ただし、鼻のそばかすが傷痕に置き換わっているというのがシンボリックに彼の人生を語ってます。コミカライズではそこにスポットを当て、琥珀お頭を「表面は大人として振る舞っているけれど、胸の内では傷を負った少年が凍り付いたまま」なキャラにしたのでした。ちびっこにはちょっと難しい話かもですが、二十数年前から彼らを知ってるおおきなおともだちとしてはそういうのも見たくて(笑)。


 今回は琥珀がもう一度「あのときの小僧」に戻る姿を描くことができました。当初雲母は参加する予定ではなく、琥珀も独楽に乗って登場する予定だったのに、絵を入れる段階で「この場面には雲母も必要だ」という心の声が。表向き「雲母は翡翠を心配してついて来た」ってことになってますが、本当の理由はたぶん、琥珀が少年の心を取り戻したからですね。雲母の背に乗る資格があるのは、少年・少女の心を持った者だけなのです。村長(ムラオサ)としての責任を負い、馬に乗ることを選んだコミカライズの琥珀は、少年時代を封じ込めて置き去りにしていたのでしょう。


 自分が「少年」としてやり直すために、弥勒義兄上に大人の責任を全部押しつけるくだりも気に入ってます。原作には特にそういう描写はなかったはずなのに、私はなぜか、この義兄弟が互いの傷を分かち合っている描写が大好きみたい。センセイあんまり詳しくないんですが、ひょっとして、これがいわゆる推しカプというやつでしょうか。義兄上は己の無力を感じるたびに蘇る、風穴への渇望と憎悪に苦しんでます。出口は「全てを自分で解決しようとせずに仲間を頼る」ではないかと思うので、これは義兄上のためでもあるんじゃなかろうか。


 孤高の大妖怪だったはずの御母堂さまが親切でマメな人になりすぎるのはどうかということで、味方陣営のゲームマスター・阿久留がここで登場。セリフがヒエログリフなのは、存在が高次すぎて人間とは直接コミュニケーションができないという演出ですけど・・よく考えたら古代エジプト人とは普通に会話できますね(笑)。まあとにかく、そんなわけで普段は時代樹さまがエージェントとして活動しているんですが、上司ご本人が現場に来たというのはかなり切迫した状況。御母堂さま的には「阿久留が『黙認してたタイムループ、さすがにそろそろ終わらせるわ』と言うので、殺されずに殺生丸を手伝えそうな奴が欲しかっただけなんだからね!」ってことで。


 コミカライズの翡翠はだいぶ私の芸風のぽんこつキャラになっちゃって、アニメの凜々しい翡翠のファンには申し訳ない。その代わり、せつなは翡翠を「不器用なところがあるけど、けっこう頼れて優しくて可愛いやつ」と思ってて好感触。がんばれ翡翠。


 七宝ちゃんをたくさん描けたのも楽しかったです。「長年犬夜叉の横暴に耐えたおらをなめるな」はあれ、私が考えた台詞という気がしません。例によってキャラのアドリブじゃないですかね。


 アニメでは御母堂さまのところにいた冥道丸は、麒麟丸さま陣営に転属してもらいました。CVは羽多野渉さんで、拙作『絶対可憐チルドレン』では葉とケンの二役を演じていただいてます。ので「当時の宣教師のイメージを混ぜて、ケンみたくインチキな感じでポルトガル語やスペイン語をチャンポンで喋る」とか考えたんですが・・・いまんとこ保留。


 そうそう、紫織さんが長崎まで一緒に行けない理由として、ちょうどこの時期に毛利が九州に侵攻するという史実をからめたのは、ちょこざいな考証だと思うのです。が、「門司が大きな港になったのは近代になってから」「この少し前に北九州はほぼ大友が掌握したのだけど、門司だけポツンと毛利のナワバリになってる理由は」とかめっちゃ説明入れようとして担当に止められました。まあ、担当が止めなかったら高橋留美子先生に止められてたと思うのでいいんですけど(笑)。


 次回の舞台は博多、物語はいよいよ是露さまとの決戦に突入します。お楽しみに!