長編の最後に来る日常パートは割と好き:週刊少年サンデー2021年/30号2021/06/12



 別にバトルものではない漫画でも、長期連載のクライマックスにはかなり非日常が入ってくるものじゃないでしょうか。で、それが終わったあとまた日常に戻るんだけど、もうあんまりページ数はないので読んでるとちょっとドキドキする的な。作品の中でもごく限られた時期にだけ味わえるレアな部分です。牛肉でいったらテールみたいなもんでしょうか。違うかな(笑)。


 さて、絶チルにしろ美神にしろ、売れてないわけではぜんぜんないけども、「大ヒット」かというとそうではないと思うのですよ。もちろんこんだけ長期連載させてもらえる作品ってのはそんなにないし、アニメにしてもらったりイベントやってもらったりしてるわけですから、ヒットには違いないし、卑下する必要はまったくないと思いますけども。むしろ卑下したら怒られます。とはいえ、進撃するアレとか鬼滅するアレとか、問答無用の大ヒット作がどーんとフィナーレを迎えた同じ時期、それとは違って静かに終わるのも確かなわけで。

刺さる人にだけ刺さってもらえればそれでいいと思って描いた作品が、多くの人に支持してもらえて、こんだけ長く連載して、終わるということでちょっと話題になって、本来ならお客さんじゃない人たちの耳にまで入って、「絶チルまだやってたの草」とか言われても、それは光栄なことなので別に怒りませ・・・草が生える必要あんのか(草)。

 いやまあね、そういうものだし別にいいんです。たとえば先日、萩尾望都先生がパーティーにいらしたことがネットで話題になってて、それ見た人が「萩尾先生ってまだ描いてたんだー」とか無邪気に言ってて「めちゃめちゃ描いてらっしゃるっちゅうねん。傑作を発表してらっしゃるっちゅうねん。アンテナにひっかかってなかったのは、単に受信範囲が狭いからやっちゅうねん」と思ったんですけどね。漫画界の至宝である萩尾先生ですらそんなですからね。私ごときはむしろ光栄に・・・・までは無理なので、もう忘れましょうね(笑)。

 私は他の作品を読むだけでは満たされない何かを埋めるために、自分の漫画を描いてるとこあります。どんな傑作でも、他人が描いたものである以上100%は満たしてくれませんから。そんな私の作品をかけがえなく思ってくれる読者がいたら、それはたぶん私が自分の心を埋めようとした何かが、その人の心の隙間にも合致したということです。そんな風に刺さってくれた人が何人かいてくれただけでも、私は漫画家になって良かったと思ってます。これはわりと本当。

 まーでも、国民的大ヒットもいっぺん描いてみたいですよね! 経済的にも承認欲求的にも、必要以上に満たされてみたいですよね!

 たぶん「万人に受けよう」と思ってできるモノではないだろうなとは思ってるんですけど。同じように「刺さる人にだけ刺さってくれれば」って描いて、それがものすごい数の人に刺さったという特別な作品だけがそこに行けるんじゃないかなって気が・・・いや、まだそんなことを考えてる場合じゃないですね。絶チルのラストシーンまであと少し、限られたページ数できちんと締められるよう全力を尽くします。

椎名センセイの次回作は、今作が終わった後でお楽しみに!


次号、最終回!:週刊少年サンデー2021年/32号2021/06/25



あと一話です。本当ならもう最後まで描き終わってないといけないのですが、単行本作業とかカラーとかに手を取られて入稿が周回遅れのギリギリなため、明日から最終話の作業です。いちおうネームは先に完成させてるんで、最終話が雑誌掲載に間に合わなくて落ちるということはないと思います・・・たぶん。関係各所のみなさまにはご迷惑をおかけしておりますが、最後ですので何卒よろしくお願いします。

絶チルとお別れするという実感は、まだあまりありません。長いこと毎日、寝ても覚めても家族同然につきあってきたキャラクターをもう描かなくなるわけですから、作者が一番作品ロスに陥ってもおかしくないと思います。でも私の場合、週刊連載は4本やりましたけど、どの連載もだいたいスケジュールはバタバタで、さらに最終話ともなると作画カロリー計算が普段よりも甘くなることもあり、あまり噛みしめるヒマもないのが通例というか。そして雑誌連載が終わってもまだ単行本用の作業などもあり、でもまあ連載中はなかなかできないような時間の使い方をしてわーっと遊び、気づいたら次の仕事の準備が切羽詰まっていたりなんかして、作品ロスとかなってる場合じゃなく新たな修羅場に突入してるという(笑)。

それと、キャラクターと長く深くつきあうと、もうなんか描いてても描いてなくても、彼らは心の中に実在の人物みたくずっと存在するんですよ。美神や横島やおキヌ、信長や日吉なんかは当たり前に今もずっと一緒にいます。カナタだってちゃんといますよ・・・じゃっかん他のキャラより影は薄いですが(笑)。そんなわけで私自身はあんまり湿っぽい気分にはなってない感じです。

ただし、絶チルのキャラクターたち、とくにザ・チルドレンは、劇中でどんどん成長して変化していく子たちです。ずっと小学生の姿と言動のまま十数年つきあったのなら、もうめっちゃ不滅の存在として私の中で生き続けるのでしょうけど、ひょっとしたら作品として出力されていない間にも、成長と変化は続くかもしれません。それはそれで楽しみなような、ちょっと寂しいような。

まあとにかく、明日から数日間、チルドレンたちとの最後のセッションに挑みます。あとのことは最終話を間に合わせてから考えましょう。