連載一周年 :少年サンデーS 2022年/10月号2022/08/26




 今回から単行本第四巻収録予定ぶんです。体調管理・スケジュール調整のために少しページ数は抑えめで進行します。といっても32Pは月刊連載としては十分なボリュームなんで、これまで特盛りで描いていたことをむしろ褒めていただきたい。



  夜爪の目玉をえぐって自分に移植するダークな理玖くん、いかがでしたでしょうか。ずっと温めてたネタで、描くのを楽しみにしてました。夕方放送のちびっ子向けTVアニメではこっち方向の描写はやりづらいですが、コミカライズでならこれくらいの方が戦国御伽草子らしいなと思って。整った見た目に反し、造られた存在である哀しみと残酷さを剥き出しにして一人称が「俺」に変わるくだり、高橋留美子先生は喜んでくださいました・・・「先生はこういうのお好きじゃないかなあ」と思って描いたので、「よっしゃあ!」という(笑)。


 目玉が四つある夜爪のキャラも流れに組み込めて、彼もあの末路は本望ではあるまいか。残り二つは予備として塩漬けかなんかにして保存しとくんだと思います。ちなみに夕方のTVアニメではやはりちょっとアレな理玖の全裸も力入れて描きました。そういえば私が関わらせてもらったアニメ『GS美神』『絶対可憐チルドレン』は、どっちも日曜の朝だというのに・・・まあいいや。



 魔改造しすぎて元ネタの面影はなくなっちゃってますが、新章はアニメのいくつかのエピソードを混ぜて錬成してます。ゲストは愛矢姫(役どころは変わります)に加え、コミカライズ版限定オリジナルキャラとして木下藤吉郎こと若き日の豊臣秀吉が登場。アニメの愛矢姫はお父さんが「関東管領・扇谷柊弾正さま」じゃないですか。ああいう肩書きって中世のリアリティーがあってかっこいいなと思ったんですけど、コミカライズは武蔵国から離れちゃってるんで、じゃあ代わりにいっそ歴史上の有名人出したらどうかなって。


 劇中の設定は1567~8年ごろ、信長上洛の直前。『犬夜叉』初期エピソードに「織田家の『うつけ』とは別人の武田家の信長少年」が出演していること、戦国時代のターニングポイントとなるこの時期が『夜叉姫』にふさわしい等を考えての考証です。となると戦国クラスタの方はピンと来ると思うのですが、藤吉郎は前の年に「墨俣一夜城」で名を上げており(注1)、この後「金ケ崎の戦い」でさらに出世、本格的な戦国武将となります(注2)。つまり現在の身分は高すぎず低すぎずでキャラクターとしての自由度が高く、しかも十五年ほど前、夜叉姫たちが生まれた前後には駿河国で今川家の家臣に仕えてて、そのすぐあとなぜか尾張に戻って織田信長のところに再就職してるという・・・・プロットに組み込みたくなる条件が揃いすぎてて、誘惑に勝てませんでした。

 あとアニメで犬夜叉役を演じた山口勝平さんが実は戦国マニアで、秀吉役を演じてもいらっしゃいます。なので「もしアニメだったら山口さんは犬夜叉と藤吉郎の二役」と想定した私の遊びというか、その予定もないのにアテガキ(笑)


 本来の戦国御伽草子の世界は「るーみっく味のライトダークファンタジー物語世界」で、こういうことはあんまりやらないですけど、アニメ『夜叉姫』は「古典的むかしばなし」方向にリアリティーラインを動かしてるし、コミカライズはちょっとだけ「椎名風タイムトラベルSF」寄りに。

 のちに時代に巨大な爪痕を残す妖怪的怪人物・秀吉を狂言回しに、『犬夜叉』と『夜叉姫』の狭間の出来事に触れつつ、同時進行で是露さまと夜叉姫の対決を進めたいと考えてますんで、たぶん出てくるであろう犬兄弟の新婚時代を楽しみにお待ちください。高橋留美子ファンと比較しちゃうと圧倒的に母数が少ない椎名高志ファンのみなさまは「信長さまは?」と思ってくれてる・・・・気がするんですけど(笑)、それはまあ流れ次第ですかね。



注1:1566年、「敵国(美濃)の領内にある戦術上の重要拠点に橋頭堡を築け」という信長の無茶振りを受け、家臣たちはバカ正直に攻め込んでバカ正直に工事しようとしてはボコボコにされていた。業を煮やした信長は現場マネージャーとしての才覚を見込んだ藤吉郎を任務に抜擢。藤吉郎は「事前に加工しておいた材料を搬入し、現地では一気に組み立てだけを行うプレハブ工法」「建物を作る前にまず防御柵を築く」という工夫で見事にそれを完遂。実際には柵の建設だけで数日かかったそうですが、敵の目前であっというまに砦を築いた鮮やかな手腕は「一夜城」として評判に。

注2:1570年、天下盗りの道が見えてきた信長は、調子に乗りすぎて思わぬ妹婿の裏切りに遭い、軍団壊滅・討ち死にもありうる絶体絶命の大ピンチに。信長軍本隊を撤退させるため、藤吉郎は<敗走しながら交戦することになるので全滅するのはほぼ確実>という最後尾部隊を自ら志願。同じく決死の覚悟で援護してくれた徳川家康と共に、多大な犠牲を出しつつもなんとか無事に撤退作戦を成功させ、その功績で譜代の重臣と肩を並べる地位に昇進。この時点ですでに、無名の農民の小せがれからの、異例も異例な大出世であった。

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