打ち合わせで「大人バージョン琥珀と少年翡翠は実質『夜叉姫』オリジナルキャラなんだし、コミカライズでももう少し活躍してもいいんじゃないか」ってことになり、二人を助っ人キャラに追加することに。
アニメの琥珀お頭は過去を乗り越えた、安定したパーソナリティーを持つ大人でした。他の旧作レギュラーは当時とあまり変わらないのに対し、彼はほぼ別キャラですね。ただし、鼻のそばかすが傷痕に置き換わっているというのがシンボリックに彼の人生を語ってます。コミカライズではそこにスポットを当て、琥珀お頭を「表面は大人として振る舞っているけれど、胸の内では傷を負った少年が凍り付いたまま」なキャラにしたのでした。ちびっこにはちょっと難しい話かもですが、二十数年前から彼らを知ってるおおきなおともだちとしてはそういうのも見たくて(笑)。
今回は琥珀がもう一度「あのときの小僧」に戻る姿を描くことができました。当初雲母は参加する予定ではなく、琥珀も独楽に乗って登場する予定だったのに、絵を入れる段階で「この場面には雲母も必要だ」という心の声が。表向き「雲母は翡翠を心配してついて来た」ってことになってますが、本当の理由はたぶん、琥珀が少年の心を取り戻したからですね。雲母の背に乗る資格があるのは、少年・少女の心を持った者だけなのです。村長(ムラオサ)としての責任を負い、馬に乗ることを選んだコミカライズの琥珀は、少年時代を封じ込めて置き去りにしていたのでしょう。
自分が「少年」としてやり直すために、弥勒義兄上に大人の責任を全部押しつけるくだりも気に入ってます。原作には特にそういう描写はなかったはずなのに、私はなぜか、この義兄弟が互いの傷を分かち合っている描写が大好きみたい。センセイあんまり詳しくないんですが、ひょっとして、これがいわゆる推しカプというやつでしょうか。義兄上は己の無力を感じるたびに蘇る、風穴への渇望と憎悪に苦しんでます。出口は「全てを自分で解決しようとせずに仲間を頼る」ではないかと思うので、これは義兄上のためでもあるんじゃなかろうか。
孤高の大妖怪だったはずの御母堂さまが親切でマメな人になりすぎるのはどうかということで、味方陣営のゲームマスター・阿久留がここで登場。セリフがヒエログリフなのは、存在が高次すぎて人間とは直接コミュニケーションができないという演出ですけど・・よく考えたら古代エジプト人とは普通に会話できますね(笑)。まあとにかく、そんなわけで普段は時代樹さまがエージェントとして活動しているんですが、上司ご本人が現場に来たというのはかなり切迫した状況。御母堂さま的には「阿久留が『黙認してたタイムループ、さすがにそろそろ終わらせるわ』と言うので、殺されずに殺生丸を手伝えそうな奴が欲しかっただけなんだからね!」ってことで。
コミカライズの翡翠はだいぶ私の芸風のぽんこつキャラになっちゃって、アニメの凜々しい翡翠のファンには申し訳ない。その代わり、せつなは翡翠を「不器用なところがあるけど、けっこう頼れて優しくて可愛いやつ」と思ってて好感触。がんばれ翡翠。
七宝ちゃんをたくさん描けたのも楽しかったです。「長年犬夜叉の横暴に耐えたおらをなめるな」はあれ、私が考えた台詞という気がしません。例によってキャラのアドリブじゃないですかね。
アニメでは御母堂さまのところにいた冥道丸は、麒麟丸さま陣営に転属してもらいました。CVは羽多野渉さんで、拙作『絶対可憐チルドレン』では葉とケンの二役を演じていただいてます。ので「当時の宣教師のイメージを混ぜて、ケンみたくインチキな感じでポルトガル語やスペイン語をチャンポンで喋る」とか考えたんですが・・・いまんとこ保留。
そうそう、紫織さんが長崎まで一緒に行けない理由として、ちょうどこの時期に毛利が九州に侵攻するという史実をからめたのは、ちょこざいな考証だと思うのです。が、「門司が大きな港になったのは近代になってから」「この少し前に北九州はほぼ大友が掌握したのだけど、門司だけポツンと毛利のナワバリになってる理由は」とかめっちゃ説明入れようとして担当に止められました。まあ、担当が止めなかったら高橋留美子先生に止められてたと思うのでいいんですけど(笑)。
次回の舞台は博多、物語はいよいよ是露さまとの決戦に突入します。お楽しみに!