摩天楼の足もと、時代錯誤の罠♪ :週刊少年サンデー13/13号2013/02/20


『THE UNLIMITED 兵部京介』放送中!
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 絶チルは2週間お休みです。その代わり、チャリティー企画「ヒーローズ・カムバック」参加作品として、『GS美神・極楽大作戦!! スペシャル・リポート: ブレイク・ユア・ディスティニー!!』を前後編でお届けします。


 発起人の細野不二彦先生から話をうかがって、二つ返事で引き受けたものの、実際に描くとなるとなにをやるのかずいぶん悩んじゃって正月はそれで消えちゃいました。どのくらい当時のノリを再現するのかとか、彼らが何をすれば今の自分にとって納得が行くのかとか。あと、先に発表されてる他の先生たちの作品がプレッシャーだったし(笑)。

 いつも絶チルを描いている仕事場で、久しぶりに美神を描くというのはなんか変な感じです。時間に追われているのでものすごい平常運行というか、フツーに週刊連載してるような。

 絵柄も芸風もずいぶん変わったと言えば変わったし、20代の作品を40代になって描いたにしてはあんまり変わってないと言えば変わってない。 
 まあ、今回はチャリティーイベントなので、「お祭り」であることを重視して・・・・・・どういうモノに仕上げたのかは掲載号の週刊少年サンデーをご覧くださいませ。このあと後編描かなきゃだし、他にもやらなきゃなんないこともあるし、まだ感慨深くまとめてる場合じゃありません。

 あとよく考えたら今は過去作品を振り返ってる場合でもないような気が。
『THE UNLIMITED兵部京介』、絶賛放送中の『THE UNLIMITED兵部京介』をよろしくお願いします。今週は皆本・賢木のキャラソンCDが新発売でございます。皆本の中の人の誕生日でもございます。ぜひともご購入くださいませ。

 

TVアニメ『THE UNLIMITED 兵部京介』 第七話:超能部隊 前編 -Generation ZERO PARTⅠ-2013/02/23

『THE UNLIMITED 兵部京介』
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 ギャグ描写は減らしてるものの、ほぼ原作通りの展開ですね。原作では不二子の主観寄りに構成してましたが、アニメの視点はもう少し引いて、第三者目線で兵部少年を見る・・・・・っていうニュアンスでしょうか。バランスもいいし、この尺でよくこれだけの分量が入ったなと思います。それで窮屈な印象がまったくないのは演出と脚本の力量ですね。後編ではさらにそこんところがよくわかると思います。

 私としても思い入れのあるエピソードで、向こう見ずでお転婆な不二子の少女時代をゆかなさんが演じてくれるところは、執筆中も想像してこっそり楽しみにしてました。でもまさか実現するとは(*´Д`)。

 OPは・・・・・・・そうきたか、かっけええええ!! 背景の変更、フィルムの劣化やつなぎ直した跡など、芸コマすぎる(笑)。兵部のオーラだけが赤いのはもしや『天国と地獄』っ!!!



 超能部隊のアイデア自体はかなり早くからあったのですが、絶チルとしての私なりの切り口がなかなか見つからなくて攻めあぐねてました。が、「自由や個性を軽視する空気 vs 世の中の標準規格から外れた不二子たちとの戦い」の物語にすれば、絶チルそのものであることに気づいた次第です。

 戦前の日本人、特に都会の中流層のメンタリティーは今とそう大きくは変わらなかったようです。白黒の記録映像を見てると今とは違う別世界だったように思ってしまいがちなのですが、実際には色はあふれてて、若い女性はおしゃれと美味しいものが好き。一方、劇中のように巡査が若い人の服装について説教するというようなことは、この時期からすでによくあったそうです。ああいうのは戦争末期になってからだと思ってたので、ちょっと意外でした。

 ただまー今の世の中にも似たようなことはあります。手っ取り早くいいことしてる気になりたがるというか、自分がお行儀良くて善良であることをズレた方向で熱心にアピールしたいというか、他人を自分と同じ枠にはめてコントロールしたがるというか。ああいう体質は「戦争のせい」「昔の人のしたこと」では済まないのではないでしょうか。

 そんなわけで、不二子が「人と違ったっていいじゃない! 自分の値打ちや生き方を、他人に決めさせたりなんか絶対にしない!」とタンカ切って大暴れするシーンこそがエピソードの中心的主題で、描いてて実に気持ちよかったです。とはいえ、嫌らしい「空気」「同調圧力」との戦いは、誰かをぶちのめせば解決するというものではありません。騒ぎのせいで部隊はピンチに陥り、不二子は自分の短絡さを悔やむことになります。

 物語のバランスが『UNLIMITED』としてはギャグに振れ過ぎちゃうので、不二子の555キック等は割愛(アイスクリームは19世紀から一般の人も食べてたんですが、注文に応じてその場で製造する「ソフトクリーム(ソフト・サーブ・アイスクリーム)」はこの数年前にアメリカで普及し始めたばかりで、日本に伝わったのは戦後だそうです・・・・まー『絶チル世界ではすでにコメリカから伝わっていた』ってことにしておいてください(笑))

 他にもたとえば菊池と犬神は若干バカが直ってますね。原作の陸軍本部盗聴シーンでは画面の隅っこで犬神じーちゃんがこっそりハト捕まえて食ってたりするんですけど、そういうのはなし(笑)。芥の吃音は大人の事情と、あと尺を少しでも詰めるために修整。
 

 その代わり「懐中時計はクライマックスに演出上のシンボルとして使う予定だったのを入れ忘れ・・・・もとい入らなかったので、時計屋はカットしてはどうでしょう。描くのめんどくさいし」と提案したところ、「それなら逆にアニメには入れましょう」ということで原作を補完していただくことになりました。まあ、どう使うかはだいたいわかると思いますが、そこは後編で。

 EDでさりげなくちゃんと菊池がフンドシ派・夏見がモモヒキ派だったりするところにも、スタッフの原作への愛がありますね(笑)。



 兵部少年の声は、このシリーズでは平野さんにお願いしました。言うまでもなく「薫は兵部の分身である」というヒントですね。群像劇でもある絶チルですが、やはり薫は作品の中心です。<ミス・絶チル>であるところの平野さんを、アイコンとしてスピンオフ作品の心臓部に配置するというのは名案だったと思います。

 兵部は「大人になりたい」という強い思いから超能力で急激に成長するため、前作で登場したミッドウェー戦のときにはすでに遊佐ボイス。しかし終戦後はそれ以上大人になることを拒絶して、今に至るという。(´;ω;`)ウッ…

 その遊佐さんはアバンタイトルと、まさかのED主題歌での登場。EDがどーんと遊佐さんのソロというのは貴重なので、遊佐ファンは全員CDだけでなく『UNLIMITED』のブルーレイを買おうネ


 


 早乙女隊長役は、初代TVシリーズのサイボーグ009役をなさっていた森功至さん。そのオマージュである超能部隊のリーダーとして、ドンピシャな配役ですね、ありがとうございます。
 小さい頃は「サイボーグ009」や「マッハGOGOGO!」に夢中だったし、思春期には「ガッチャマン」「ガンダム」で、そして漫画家になってからは拙作『GS美神』の吸血鬼ピートの親父・ブラドー役でお世話になっております。

 早乙女は大変優れたリーダーです。ただ、「理想や理屈は目的ではなく、手段に過ぎない」と言い切っちゃうところに、彼の冷酷さと野心の片鱗が。苦学して東大に入って「カミソリ(頭がよく切れる、の意)早乙女」とか呼ばれてたタイプじゃないでしょうか(笑)。やがて戦争で歯車が狂い、悲劇に至るわけですが・・・・・その辺についてはまた来週。

 というわけで次回は兵部少年対ゼロの空中戦!! ふんどしじゃないから恥ずかしくないでごわす!!


読み返すとそんなにエロくはないのよこの漫画 :週刊少年サンデー13/14号2013/02/28


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 チャリティー企画「ヒーローズ・カムバック」参加作品『GS美神・極楽大作戦!! スペシャル・リポート: ブレイク・ユア・ディスティニー!!』後編です。
 私としては「当時そのまんま」はできないし、やる意味もあまり感じません。「あの頃は良かった」って人の中の<理想化された当時>には勝てないし、仮に再現できたところでそれはただの模倣というか、今の私にとっての<生きた仕事>じゃないと思います。美神は今もフツーに私の中にいますので、機会があればなんぼでも描きますが、今の自分にとっての主題を、今の読者たちにも向けて描く、フツーの新作です。

 今回は「今読み返すとこの辺が一番安定してたかなー」と思う絵柄をベースにしつつ、初期のプレーンな設定を基本にして仕上げてみました。お祭りとしての賑やかさを出すため、週刊連載した他の作品『MISTERジパング』『一番湯のカナタ』の信長とセイリュートもゲスト出演。でも物語はあくまでも『GS美神』というコンセプトです。

 初期のネームでは「小龍姫さまがセイリュートの知り合いで、仲裁に来る」というバージョンも作ってたんですが、キャラが増えるとそれだけでどんどんページ食っちゃうし、横島の視点や描写が減ってしまいます。信長を出さないならそれも行けたかもだけど、それだとセイリュートを出す意味がぼやけます。あと、「信長の召し抱える忍者が絶チルメンバーで、美神たちと一緒に横島と戦う」というのも考えてたものの、それもページの都合で無理でした。短編というのは、入れたい要素の中の最優先部位を探し出して、そこに絞り込んで他をそぎ落とす作業なのです。


 意図したわけではないのですが、構造的には、不遇な連載だった「カナタ」の恨みを「美神」と「ジパング」がとりなす・・・みたいな物語ですね(笑)。
 まあ正直カナタは思い出すのも面白くない仕事なんですが、そこで学んだことはたくさんあって、それが今の絶チルにつながってるんで、私には個人的に大事な作品です。
 一方ジパングはね、あれは画面に必要な要素や考証が、私の作業ペースだと週刊ではキツい作品だったのですよ。それと、いま思えば作者は『銀魂』みたいなことをやろうとしてたんですが、編集者は闘争でのし上がってくヒエラルキー漫画にしたがってて、そこの落としどころが見つからなくて、もう限界だなと思ったほどほどのところで終わりました。ただまー単行本はかなりの部数売れてたんで、「あれは打ち切り」とか知ったかぶりしてる子がいたら、そう教えてあげてください(笑)。打ち切りは『一番湯のカナタ』だけ!



 まあ、過ぎたことはもういいのです。それよりも
『THE UNLIMITED兵部京介』、絶賛放送中の『THE UNLIMITED兵部京介』をよろしくお願いします。新たにユウギリとザ・チルドレンのキャラソンも発売されました。ぜひともご購入くださいませ!