漫画家は年末年始も仕事です:サンデーS 2024/02月号2023/12/30




 「お城」つながりで、アニメの竹千代お家騒動エピソードともひっかけた展開です。残念ながら構成の都合で犬夜叉チームもキッド様も出てきませんが


 「天地返し」がアニメよりも複雑な妖術になってるのは、夜叉姫チームを素早く分断するための都合と、アニメのあの小気味よい音と映像の演出が欠けるぶんを補うため。あとはまあご覧の通りの内容で、是露との因縁に決着をつける話の前振りですね。あ、琥珀と翡翠のせつなに関するやりとりは、アニメの最終回と対になってます。「難攻不落だな」と同情してた叔父上が、ここでは「脈あるぞ、がんばれ」と言うくらいには希望が(笑)。


 犬の大将はオリジナルでの登場が少なく、そのままでは私が動かすための情報が足りないのですが、独自に掘り下げていいのかは難しいところです。ビビって遠慮するとキャラがぼんやりするし、体重を乗せすぎてもオリジナルと離れ過ぎちゃう。とはいえ、是露さまの行動動機はアニメだとかなり複雑な陰影と経緯があって、そのまま漫画に描くと長くなりすぎます。なので、おやかた様の人物像と絡めることでまとめるしかないなと。

 すでに殺生丸や御母堂さま、麒麟丸や是露との関係についてはだいぶ踏み込んでますけど、自分が『天下覇道の剣』『半妖の夜叉姫』見たときに(こういう人物だろうな)と想像した印象をそのままベタに描いているので、当時からのファンのみなさんのそれともそんなに大きく違わない・・・といいなあ。


 私の拠り所は例によって「声優さんの声が聞こえるかどうか」です。大塚明夫さんや坂本真綾さんの声を脳内でアテつつ、しっくり来たらOK。その後高橋留美子先生のチェックに投げたら私の解釈が間違ってたということもちょくちょくあるんですけど(笑)、そこはちゃんと軌道修正してますんで。


 是露さまの衣装が時系列に沿ってきちんと並んでないのはもうしょうがない。最初に理玖の誕生シーン描いたときにはまだ「過去回想では衣装を古風に変更する」という発想がなかったもんで・・「闇堕ちしたときに花魁風にチェンジした」にできてれば、キレイな流れでしたね。

 

 さて、現在私は次のエピソードを執筆中ですが、これがみなさんにお届けする年内最後の『半妖の夜叉姫』となります。できるだけコンパクトに完結するよう頑張ってるものの、ラストシーンまではまだしばらくかかりそうですので、来年もぜひ、漫画版のとわ・せつな・もろはたちにおつきあいください。それではみなさん、よいお年を。


漫画やアニメのトラック、人身事故起こしすぎ問題 :サンデーS 2024/01月号2023/11/27





 意表をついて現代パートからのスタートです。当初はあの時代に南蛮から伝わってきたばかりの「天ぷら」を食べるシーンからと構想していたんですけど、ちょっと舞台に変化が欲しいなと思い直してこのように。天ぷらの歴史ウンチクを語れなかったのは惜しいものの(笑)、懐かしいタタリモッケを描くことで『犬夜叉』世界とのつながりをアピールできたので、まあこっちにして良かったんじゃないでしょうか。


 私の切り口は「へー、ここがあの戦国御伽草子の世界かあ・・!」という、観光客的な目線です。長年の高橋留美子信者である私の目線を、現代育ちのとわちゃんのそれと重ねたわけで、いわばこのコミカライズは私の高橋留美子作品へのラブソング。それが許されたのでこの仕事やってると言っても過言ではありません。でもとわちゃんはもともとそこの住人ですから、いずれ私の手を離れ、帰っていくことになります。


 何度か言ってる気がしますが、これ、昔見た『野生のエルザ』っていう映画のイメージなんですよ。まだライオンの人工授乳飼育にほとんど前例がなかった時代、イギリス人女性が赤ちゃんライオンを保護して「エルザ」と名づけ、ちゃんと育てた上に訓練して野生の群れに戻したという実話を元にした映画。ジョン・バリーの美しく雄大な名曲『ボーン・フリー』が流れるラストシーン、猫のように可愛がられていたライオンが成長し、頼もしくゆったりとサバンナに去ってく姿には泣いた・・・と思ってこないだ見返したら、いろいろ古くなっててそんなにはグッとこなかったですね(笑)。まあ小さい頃の記憶だし。公開当時は大ヒット映画だったのです。


 連載が終わると我々漫画家はキャラクターとお別れするのかというと、たしかに描かなくはなるけど、彼らはずっと作者の中にいるし「うちの子」のままです。でも、他人の版権である夜叉姫たちと私の別れは、たぶんもう少しドラスティックなものになるかなと。



 屍屋・博多店の呂苦兵衞さんはモノクル(片眼鏡)キャラ。オリジナル獣兵衞さんの目の傷に対応させてみました。当時ヨーロッパに眼鏡はすでに存在してて、使っている宣教師に信長は興味津々だったとか。現在のように耳で固定する方式の発明はずっとあとで、この頃は鼻に挟む「鼻眼鏡」でした。モノクルはおしゃれアイテムとして19世紀に流行して、コナンのキッドさまがモノクル使ってるのもその頃の怪盗紳士、アルセーヌ・ルパンのイメージですね。戦国時代にあったのかどうかはちょっとわからないんですけど、考証としてはギリギリ許容範囲かなと。レンズはかなり高価だったはずで、一個なら半額だし。


 例によって別モノな展開にはなってますが、今回も一応アニメの部品をあちこちから集めて、新たにでっち上げた素材を接着剤にして、漫画用に再構成してます。いまやってるのはアニメ2期前半〜中盤あたりですかね。アニメとコミカライズ、お互いをよりいっそう楽しんでいただけると嬉しいです。


戦国のメリー・クリスマス :サンデーS 2023/12月号2023/10/28




 打ち合わせで「大人バージョン琥珀と少年翡翠は実質『夜叉姫』オリジナルキャラなんだし、コミカライズでももう少し活躍してもいいんじゃないか」ってことになり、二人を助っ人キャラに追加することに。


 アニメの琥珀お頭は過去を乗り越えた、安定したパーソナリティーを持つ大人でした。他の旧作レギュラーは当時とあまり変わらないのに対し、彼はほぼ別キャラですね。ただし、鼻のそばかすが傷痕に置き換わっているというのがシンボリックに彼の人生を語ってます。コミカライズではそこにスポットを当て、琥珀お頭を「表面は大人として振る舞っているけれど、胸の内では傷を負った少年が凍り付いたまま」なキャラにしたのでした。ちびっこにはちょっと難しい話かもですが、二十数年前から彼らを知ってるおおきなおともだちとしてはそういうのも見たくて(笑)。


 今回は琥珀がもう一度「あのときの小僧」に戻る姿を描くことができました。当初雲母は参加する予定ではなく、琥珀も独楽に乗って登場する予定だったのに、絵を入れる段階で「この場面には雲母も必要だ」という心の声が。表向き「雲母は翡翠を心配してついて来た」ってことになってますが、本当の理由はたぶん、琥珀が少年の心を取り戻したからですね。雲母の背に乗る資格があるのは、少年・少女の心を持った者だけなのです。村長(ムラオサ)としての責任を負い、馬に乗ることを選んだコミカライズの琥珀は、少年時代を封じ込めて置き去りにしていたのでしょう。


 自分が「少年」としてやり直すために、弥勒義兄上に大人の責任を全部押しつけるくだりも気に入ってます。原作には特にそういう描写はなかったはずなのに、私はなぜか、この義兄弟が互いの傷を分かち合っている描写が大好きみたい。センセイあんまり詳しくないんですが、ひょっとして、これがいわゆる推しカプというやつでしょうか。義兄上は己の無力を感じるたびに蘇る、風穴への渇望と憎悪に苦しんでます。出口は「全てを自分で解決しようとせずに仲間を頼る」ではないかと思うので、これは義兄上のためでもあるんじゃなかろうか。


 孤高の大妖怪だったはずの御母堂さまが親切でマメな人になりすぎるのはどうかということで、味方陣営のゲームマスター・阿久留がここで登場。セリフがヒエログリフなのは、存在が高次すぎて人間とは直接コミュニケーションができないという演出ですけど・・よく考えたら古代エジプト人とは普通に会話できますね(笑)。まあとにかく、そんなわけで普段は時代樹さまがエージェントとして活動しているんですが、上司ご本人が現場に来たというのはかなり切迫した状況。御母堂さま的には「阿久留が『黙認してたタイムループ、さすがにそろそろ終わらせるわ』と言うので、殺されずに殺生丸を手伝えそうな奴が欲しかっただけなんだからね!」ってことで。


 コミカライズの翡翠はだいぶ私の芸風のぽんこつキャラになっちゃって、アニメの凜々しい翡翠のファンには申し訳ない。その代わり、せつなは翡翠を「不器用なところがあるけど、けっこう頼れて優しくて可愛いやつ」と思ってて好感触。がんばれ翡翠。


 七宝ちゃんをたくさん描けたのも楽しかったです。「長年犬夜叉の横暴に耐えたおらをなめるな」はあれ、私が考えた台詞という気がしません。例によってキャラのアドリブじゃないですかね。


 アニメでは御母堂さまのところにいた冥道丸は、麒麟丸さま陣営に転属してもらいました。CVは羽多野渉さんで、拙作『絶対可憐チルドレン』では葉とケンの二役を演じていただいてます。ので「当時の宣教師のイメージを混ぜて、ケンみたくインチキな感じでポルトガル語やスペイン語をチャンポンで喋る」とか考えたんですが・・・いまんとこ保留。


 そうそう、紫織さんが長崎まで一緒に行けない理由として、ちょうどこの時期に毛利が九州に侵攻するという史実をからめたのは、ちょこざいな考証だと思うのです。が、「門司が大きな港になったのは近代になってから」「この少し前に北九州はほぼ大友が掌握したのだけど、門司だけポツンと毛利のナワバリになってる理由は」とかめっちゃ説明入れようとして担当に止められました。まあ、担当が止めなかったら高橋留美子先生に止められてたと思うのでいいんですけど(笑)。


 次回の舞台は博多、物語はいよいよ是露さまとの決戦に突入します。お楽しみに!


アコレード(叙勲式) :サンデーS 2023/11月号2023/09/26




 コミカライズの理玖は「とわの騎士」となりました。殺生丸さまには邪見、とわには理玖・・という解釈ですかね(笑)先日高橋留美子先生が受勲なさったシュバリエ勲章とひっかけたというか。シュバリエ(chevalier)はフランス語で「騎士」という意味なので。でもイギリスのナイトとは別物で、肩に剣を当ててもらう儀式はなかったし「高橋留美子卿」にもなってないとのこと。


 で、その叙勲の儀式を、とわとの絆だけではなく、理玖の再生・自立の通過儀礼として挿入。ロマンチックだし、日本の戦国時代とのギャップや相性のバランス等、悪くない演出だと自分では思います。ただ、担当には「読者はこの儀式知らないかも。ていうか私も知りませんでした」って言われて(笑)。ま、あとで何かのおりに「あっ、夜叉姫の漫画で見たやつだ!」ってなるのもええんとちゃいますか。わしら世代のフランス革命に関する知識は、ほぼ『ベルばら』がソースやで。


 理玖の妖怪モードはいかがだったでしょうか。妖怪というのはただ異能を持つだけでなく、根本的に人外のバケモノな部分があるはずで、でもアニメの理玖はお行儀よくそれをあまり表に出さないようにしているのだと思います。大事な人のために隠しておきたかった本性をさらけ出すというのはエロくないですかどうですかセンセイは好物です追い詰められた女性の人外キャラが「見ないで・・!」とか言いながら好きな人の目の前で変身したりするシチュはいいですね(早口)。そして演出記号としては「着物を脱ぐ」というのがすでに「心を開く」「無防備になる」「自分を解放する」などのメタファーなんで、本当ならあのシーンはふんどしが(まだ言ってる)。


 今回もう一つの見せ場は紫織さんの「出ていけ」アンコール。紫織さんが登場すると決まったときからこれをやりたくて、見開きで描けて満足です。いちおうアニメ版での関係を意識して、せつなと連携する流れは作っておきました。そして訓練された『犬夜叉』ファンは「うちのかあちゃんは面食い」で笑ってくれた・・と思うのですがどうか。とうちゃんイケメン妖怪でしたもんね(笑)。


 ワダツミヅチに取り憑いてた亡霊の中には、大獄丸じいちゃんっぽい妖怪の姿も。あれがご老体本人なのか、同族の別個体なのかはご想像にお任せします。ただまあ、仮にご本人だったとしても、もはや生前の自分が何者だったかもさだかでないくらい虚ろな抜け殻で、怨念だけの存在でしょうね。「爺さんの怨霊がまだしつこく紫織をつけ狙っていた」って案もあったのですが、それだと『犬夜叉』で2回もトドメを刺されたのに元気すぎて、百鬼蝙蝠編のラストの余韻に水をさしちゃう。でも「紫織が積み重ねた『犬夜叉』以降の人生」を演出するためには混じってた方がいいだろうということで、モブ妖怪にしれっと混じってカメオ出演してるくらいが丁度いいバランスかなと。


 昔の漫画では「犬笛」がよくネタになってました。調べてみたらコウモリが使う周波数は犬の可聴域よりもさらに高いそうです。指向性の強い音波を当てて泡を発生させたり骨伝導で会話したりとか・・・  まあ、七人隊の銀骨さんがいた世界だし「コウモリは犬に聞こえない音を使うんですゥー」含めて漫画超科学ってことで。


 紫織さんを大胆にアレンジしたしわ寄せが全部海蛇女さんの方に行っちゃって、ひたすら悪役かませ犬に徹してもらった彼女にはなんかすごく申し訳ない。いちおう「海蛇女は地中海がルーツの妖怪で、3姉妹。一匹は退治されて有名な神話の元ネタに。残りの二匹は地元にいづらくなって外洋へ」「アニメ版のワタツノタマヒはだいぶ温厚で、コミカライズのワダツミズチとは姉妹の別個体。インド洋経由で極東まで来たのがどっちかという世界線分岐」って裏設定。



 次回から舞台は九州です。ここで、描いてる私自身も意外なアレンジ・・・琥珀と翡翠が参戦。物語後半の再構成は彼らにも手伝ってもらうことになりました。詳しいことはまたのちほど。次回もお楽しみに!


誤解じゃねえだろw :サンデーS 2023/10月号2023/08/26



 アニメ版の海蛇女には「人間との誤解とすれ違い」というバックストーリーがあったわけですが、先を急ぐコミカライズではレギュラー陣の描写に全振り。海蛇女さんは単なるワルモノとし、「海の怪物との決闘」シーハントものにまとめました。

 私は爬虫類大好きで、あんまり気持ち悪いと思ったことないんですよ。あいつらのキョロッとした目とか超かわいくないですか。しかもウミヘビは丸くて首が太く、危険性はともかく見た目は愛嬌ひとしおです。だもんで、ワダツミズチの髪は海蛇女さんのウミヘビ風から深海魚風に変更しました。深海魚だって見ようによってはかわいいんですけど、シーハントもののモンスターとするなら、ひと目でわかる「獰猛」「人間とは異質な世界に棲息してる」って記号が欲しかったので。おっぱいは丸出しの方が中世の妖怪らしいと思うものの、百足上臈といろいろ被っちゃうのを避けて水着風に。ちなみにとわがオペラグラス使ってたのは、実はアニメのサングラスに対応させた細かすぎる小ネタです。


 高橋留美子先生によると「冥加は犬の大将の一族以外には慈悲も敬意もない」とのことです。原作では鉄砕牙強化のために小さな女の子を斬ることには全く躊躇なかったですもんね。百鬼蝙蝠編を読み返してて(ひでえな、このじーさんww)と思ったので、冒頭シーンは私からのお仕置き(笑)。

 アニメ版の紫織姐さんは「強力な結界で半妖の里を守ってる」という設定でした。けど『犬夜叉』では結界増幅装置の血玉珊瑚を破壊して終わってましたから、例によって調整が要るかなと。新世代に幅広く戦国御伽草子を紹介するのが主眼のアニメに対し、コミカライズ版は「犬夜叉パスティーシュ」というコンセプトです。なので、描いてる漫画家が別人というギャップを埋めるためにも、連続性の強化が必要なのです。
 で、血玉珊瑚を失ったことに言及しつつ、「強力だけど瞬間的なフォースフィールド」ということに。地獄耳と超音波はアニメ設定に準拠、コウモリを使い魔にしている描写は舞台を海上にしたこともあって省略。その代わりと言ってはなんですけど、帯の模様に気づいてくれました?

 出演はかないませんでしたが、紫織のかあちゃんはコミカライズ時空では今も元気にしてます。紫織が退治屋としてバリバリ働く強くて逞しい女性に育ったのは、かあちゃんの教育の賜物なんでしょうね。


 理玖は本当はふんどし姿を描きたかったのです。いや私の趣味ということではなく、戦国時代で海なんだから、考証として正しい衣装はふんどしだろうと。黒澤時代劇で三船敏郎のふんどし姿何度も見たし。しかし担当編集者と嫁に断固拒否され(笑)、上半身だけのもろ肌脱ぎに妥協。ふんどし姿なら「荒くれ者たちに溶け込んでる」感がもっと強調できたのではないかなとは思うんですけど・・・ま、、「シリアスなシーンでしまらないかもな」とも思ったので、やっぱふんどし理玖は見送り(笑)。

 ラストはとわが大ピンチです。物語としては助かるに決まってるんですが、誰がどう助けてどう決着するのか、そこが大事。次回もお楽しみに。


 ところで・・・単行本第5巻の発売に合わせ、ボイスコミック作ってもらいました! コミカライズ世界線のお芝居をしてくださってる三人が超素敵なので、みんな見てね!

https://youtu.be/lHw-KciZ6EA?si=SFpmIdpjJUBFF9FK
https://youtu.be/ygKvDwhUmWA?si=kIvIdJQ8SRveU0kt
https://youtu.be/PUkWrMMN4HA?si=jZSgILFMDJ5c_pUr