コミカライズとわたくし :少年サンデーS 2021年/12月号 ― 2021/10/03
第二話、完成しました。一話目はけっこうご好評いただけたようで、ほっとしてますが・・・まだ油断できません。第一話がお口に合ったみなさんには楽しんでいただける出来だとは思うんですけど、単行本一巻ぶん、第三話までの流れで良くも悪くもこのコミカライズの方向性がはっきりするという作りになってますんで、年内の私は情緒不安定のままであると思われます。なので面白かったら積極的に褒めてくださいね。
配信はおろかまだ家庭用ビデオデッキなどなかった私の子供時代、コミカライズは子供が好きな映像コンテンツの物語世界に繰り返しひたる唯一の方法でした。高度経済成長期で爆発的に増えた子供たちの娯楽として、TVアニメ(当時は「TVまんが」と呼ばれてた)や特撮ヒーローが百花繚乱となり、そのタイアップ宣伝企画としてのコミカライズも数多く作られた・・・というのは、たぶんそんなに間違ってないと思います。いまのコミカライズとはまた状況が異なりますが。
漫画家あるいは漫画制作プロダクションが「原作者」という形で最初からプロジェクトに参加し、アニメと同時進行で「原作という名のコミカライズ」を執筆するなどという手法もあって、『仮面ライダー』『デビルマン』『ゲッターロボ』『セーラームーン』あたりが有名ですね。その辺の作品群は「まず原作漫画があって、それをアニメ化」あるいはその逆というのとはちょっと違います。なのでアニメとはだいぶ異なる名作漫画として我々の印象に残っており、デビルマンやゲッターロボはもはや伝説というか、当時のちびっこのトラウマというか(笑)。
私の場合は「ある程度キャリアを積んだ漫画家が自分から『やらせてくれ』と頼んで、権利者に快諾してもらって、チェックはしてもらいつつも割と自分の裁量で描く」という形ですので、もしかしたらトリビュートというやつに近いかも。私だけじゃなく藤田和日郎先生や青山剛昌先生や畑健二郎先生の描く『夜叉姫』とか読んでみたくないですか。私は読みたい(笑)。短篇でなく連載としてがっつりやるのはちょっと珍しいように思いますが・・・あ、『PLUTO』があった。あれは素晴らしい傑作ですね。
さて、16年も連載してた絶チルがちょうど終わって、アニメ二期が始まるタイミングでコミカライズ開始というのがもうなんかアレなんですけど、他にも本当にたまたまいろんな状況やタイミングが不思議なほどぴたりとちょうどよく揃ってて。るーみっくプロのスタッフがいまウチの奥さんがいたころのメンバー多めなのでちょっとした問い合わせが気安いとか、高橋先生と私の担当編集者が同期でやっぱり連絡が気安いとかいう細かいとこまで(笑)・・・つまりおそらく私は何かに導かれて『夜叉姫』をコミカライズすることになったと思われ、だからたぶん大丈夫です。きっと二話目も気に入ってもらえる・・・んじゃないかな。
入稿してから発売まで一ヶ月近くあると、その間何十回も読み返しては「面白い・・・と自分では思うんだけど、読者はどうかなあ・・・いやでも高橋先生も隅沢さんも面白いって言ってくれたし・・・」という自問を繰り返し、発売する頃にはもう何がなにやらわからなくなってるのですよ(笑)。でもそれでどうなるものでもないので、すぐに第三話の作業にとりかかります。
サブタイトルが『戦場の絆』と似ていることにはあとで気づいた:サンデーS 2021年12月号 ― 2021/10/26
「サンライズ作品だからサブタイトルは毎回ガンダムネタで行ったらどうかな(笑)」などと言っていましたが本気ではなかった。なのでちゃんと真面目に考えて『戦国の絆』ってつけたのに結果的にガンダムネタっぽい。偶然なのか無意識の所業なのか。
さて、第二話はアニメにはないシーンの連続です。双子が生まれたシーンがかろうじて見覚えがある感じでしょうか。
先にも述べたように、アレンジはコミカライズの宿命・・・主に分量の問題で。で、親たちが行方不明になったことを説明するとき、みんな一緒にすれば話がだいぶ早い。空飛ぶ牛車に乗れば、絵的にも一発。もろはちゃんとせつなちゃんは一緒に育っててすでにコンビを結成しているなど、序盤の情報を剪定してまとめ、漫画の展開をスピーディーにしております。退治屋の村や屍屋もすぐに登場するんですが、いまはざっくりと「育ての親は楓ばーちゃん」とし、メインクエスト進行が優先。あ、時代樹の精が面をしてて言葉遣いが古文っぽいのは、桔梗さまのキャラクター性を少し抑えて「彼女の心を受け継いではいるけれども、あくまでも別人」であることを強調するためです。ゲスト出演は嬉しいけれども、あれだけ苦労したおねえさまですからね。「ご本人は彼岸で安らかにしている」ということは、いくら強調してもやりすぎってこたないだろうと思って(笑)。印象はだいぶ原作と違っちゃいましたけど、理玖くんや夢の胡蝶などもアレンジした形で織り込めたので、独自色強めではありつつも、原作から離れすぎずに構成できたんじゃないでしょうか。
いっぽう、圧縮形態に合わせる形でキャラクターの掘り下げも行いました。もろはちゃんとせつなちゃんがすでにお互いを信頼しあっている関係性、歳を取って脆くなっている楓ばーちゃんの心情描写なんかは、アニメ原作とは世界線が少し異なるコミカライズ版ならではのアプローチです。なかなか良い味が出たし、こういうのがメディアミックス展開の醍醐味だと私は思います。
私のこだわりポイントは「大人なので冒険に行けない草太パパ」のシーン。行きたいよね、物語の世界。でも大人になったウェンディはネバーランドに行けないという。草太パパはおっさんだけど。コミカライズでの草太パパには、物語の世界に憧れる、大人になれないオジサンであるところの私の代弁者という仕事もしてもらってます(笑)。
アレンジを加える際には「アニメと相乗効果が生まれるように」という気持ちを込めてます。アニメの方は新しい世代、特に低年齢層が楽しめて『犬夜叉』世界への入り口となることを意識していると思われるので、大きなお友達である私としては「じゃあこっちは『犬夜叉』との連携度をちょっと上げて、ついでに和風ダークファンタジー風味をやや強めに」って方向に舵を切り、「わーいやしゃひめのまんが版だー♪」ってうっかり読みに来た子供をくぱあーっと沼にひきずりこみたいというか(笑)。設定や構成は多少変わってますけど、実はよく見るとまったく新しい要素ってのはあまりなくて、あくまでもアニメ版あってこその脚色です。アニメ見てからコミカライズを読んだ方が三姫の可愛さが引き立つし、コミカライズ読んでからアニメを見るとキャラに陰影が加わって、より愛おしさが増す・・そんな仕事になることが目標です。
前回のゲスト妖怪は原作通り三ツ目上臈さんでした。今回は麒麟丸さまの配下が動き出す前のジャブとしてなんかいい妖怪はないかと考えた結果・・・『犬夜叉』での登場順にちなみ、四魂の玉が飛散する原因を作った、懐かしい屍舞烏さんにゲスト出演いただきました。今回の烏たちはあの個体の子供たちという裏設定で、なので七羽います。いやほら、烏は山に七つの子があったというではないですか(笑)。
途中チラッと出てくる十二単(じゅうにひとえ)の妖怪の正体は・・・ヒントがたっぷりすぎるのですでに察している『犬夜叉』ファンもいるかと思いますけど、次号まで内緒にしつつ、楽しみにしててくださいね。