りんちゃんなう :サンデーS 2022年2月号2021/12/14



 ここから新章です。

 脚色するにあたっては、何を軸にするかが背骨になるわけですけど、私は『夜叉姫』を「姫たちが冒険を通じて、新しい読者と一緒に『犬夜叉』世界を、殺生丸さまや犬夜叉先輩を理解していく物語」と解釈しました。

 で、その過程を「道のり」として表現するため、「西への旅」という設定を持ち込んだんですけど・・・このロードムービー的というか珍道中ものというか、いわゆる『西遊記』フォーマットというのは、キャラクターの成長や物語の進捗状況を旅の行程に重ね、ドラマのゴールに向かうプロセスがわかりやすくなるという利点があって、少年漫画では昔からよく使われる手です。

  犬の大将は西国の大妖怪だったわけですから、姫たちが自分のルーツである『犬夜叉』世界の核心に向かう旅として、目的地を西に設定するのは筋が通るように思います。でもじゃあなんでアニメはそうしてないのかというと、それをやると『犬夜叉』登場キャラクターたちのいる武蔵国から離れてっちゃうという。あと「西国」っていうのが具体的にどのあたりかもわかんないし、戦国時代の情勢や地理の考証をどの程度あの御伽草子世界に持ち込むのかとかいう問題も。

 コミカライズでは一本道を突き進んだ方が焦点も絞れていいんじゃないかってことで採用しましたが、まだ史実と御伽草子のバランスの落とし所は探ってる最中で、ご当地ネタや名物を出すのかとか、方言はどうすんだとか・・・・どうしましょうね。あ、いま「蠱毒のグルメ」ってネタを思いつきましたが。ボツですか。そうですね。

 ただ、今回のネームを描いた結果、アニメとはちょっと役どころが変わりつつも、凱風(やわらぎ)師匠の登場が確定しました。(こっちの世界線ではもろはちゃんの生い立ちが変わったので、師匠の出番はカットかなあ)と思ってたのに、意外です。で、アニメ原作で師匠の声を演じてらっしゃるのは、拙作『絶対可憐チルドレン』で関西弁の瞬間移動能力者・葵ちゃんを演じていただいた、白石涼子さん。計らずもコミカライズでの師匠は「西の妖狼族」ってことになってて、これはもう関西弁決定かなと(笑)。一人称を「ウチ」にするのはちょっとヤリスギな気がするんで避けますけど、俊敏な妖狼族なわけだから、「ヒュパッ」は不可避。

「絶チルとか知らないから意味わかんない」という皆様には、コミカライズ世界線ならではのスペシャルサプライズゲストもご用意しておりますので、25日ごろ発売のサンデーS、ぜひお読みください。サプライズなので誰なのかは秘密ですが・・・ヒントは


むかし『犬夜叉』CDドラマで「レギュラーなのに影が薄い」といじられていたという噂。

 単行本第一巻は1/18ごろ発売です。高橋留美子先生と私の対談記事も収録。高橋先生の著作であれば間違いなく売れるんですけど、なにしろアニメオリジナル作品のコミカライズ、しかも描いているのが私なもんで、どのくらい売れるのかまったく読めません。ということはおそらく部数は絞り気味になるんじゃないかなーと思うんで、いまのうち書店で予約していただけると安心ですよ。俺が。



ようこそジャ●リパークへ :少年サンデーS 2022年2月号2021/12/27



 姫たちの旅の第一歩は、退治屋の里が舞台です。成長した琥珀くんにスポットライトを当て、彼の目線で『犬夜叉』の物語を振り返ります。

 このコミカライズは「私と読者がとわちゃんと一緒に『犬夜叉』世界を訪問する」という入口から始め、「殺生丸という人物を、新たな登場人物の視点から解き明かす物語」としてアニメを再構築してます。なので、「『犬夜叉』で現場にいた人たちの、それぞれの目線からの証言」は、前日譚の説明であると同時に道しるべ。琥珀お頭の背負う過去もコミカライズではまるっと開示して、複雑な陰影を持つ父・殺生丸さまへの興味を深めてもらった次第です。

 私は琥珀くんを「過酷な世界を生きた、もう一人の草太くん」と解釈してたもんで、コミカライズ時空では親バカになった草太パパに引っ張られ、琥珀お頭もかなり三姫に甘々に(笑)。「成長した彼が、奈落に操られて殺めてしまった父親や仲間の墓前に手を合わせる」「いまもその過去から完全には逃れられないでいる」という描写は絶対に入れたくて、でもそれで物語が暗くなりすぎないように調整。

 原作『犬夜叉』版の雲母ちゃんはフキダシとか使わない子なのですが、アニメ版ではけっこう声出してて、漫画に逆輸入するとだいぶ喋る子な気がするんですよね。コミカライズではどうしようかなーと迷った末、「人間であるかごめから見ると無口だけど、半妖の姫たちの目線で見た雲母は割と喋る」と解釈しました。ついでに猫味を増してみたのですが、「抱き上げるとうにょーんと長い」とか「ベタベタしすぎると顔を肉球で押してつっぱる」とか、あんまり猫にしちゃうと別人(獣?)すぎることが判明したので、この辺が落としどころのように思います・・・・一応描いてはみたという(笑)。

 雲母ちゃんにはあまり大人数は乗れないので、この後の展開の都合もあってお頭には馬をご用意しました。絵にしてみたら、馬に乗ってると大人になった彼の威厳・権威を演出できたので、正解だったと思います。ちなみにあくまでも私の個人的かつ非公式な裏設定なんですが、愛馬の名前は「カグラ」だったりすんじゃないかなーと。

 神楽姐さんのラストシーンはシリーズ屈指の名場面のひとつなので、私はぜひ拾いたくて、でも印象的であるがゆえにそこに踏み込み過ぎると物語のバランスがそっちに振れ過ぎちゃうというジレンマがあり。なので高橋先生と相談の結果、回想はあのとき駆けつけて見守っていた琥珀くんの目線からの小さなカットにとどめるということになりました。逆に言えば、私としてはちらっとでもいいからどうしても、短い生涯を精一杯生きた彼女にふれておきたかったというか。彼女の生き様は、あとで登場するキャラクターたちに重なる部分がありますしね。

 新章の目玉は、アニメ原作では顔見せだけにとどまっていた鋼牙兄者の参戦です。アニメ世界線の延長なら菖蒲(あやめ)ちゃんもいるはずなんですが、残念ながらページの都合により出演は見送り。「鋼牙兄者のいないあいだ群を守っていてお留守番」ということかも。

 前にも書いた通り、凱風(やわらぎ)師匠は立ち位置を少し変更したついでに若返ってもらっての登場です。今回はまだセリフがないですが、次回からは関西弁でしゃべりますのでご期待ください(笑)。


 先月までのエピソードを収録した単行本第一巻は1/18ごろ発売予定です。初版部数は少なめに絞られちゃって、だからたぶん品切れになるんとちゃうかなー・・・なるといいな・・・いや品切れになるということは欲しいのに手に入らないという人が発生するということだから良くはないけど、「ほらあ!! もうちょっと刷るべきだったよね!? 重版急いで!!」と小学館さんにドヤ顔で言えるといいな。ま、電子版もありますので、もし店頭で買えなかった場合は注文・取り寄せに加えてそちらも選択肢としてご検討ください。買ってね。