懐かしい部屋:サンデーS 2025/01月号2024/11/26





 我々の感覚ではエグい傷なのに当人はわりとケロッとしてる・・というのは戦国御伽草子の半妖らしくて気に入ってますけど、とわちゃんの肌にでっかい傷を描くのは痛々しくてけっこうキツかったです。それと、かごめの部屋は考証としてはもっと「普段は使ってない」感を出すべきなんですよね。『犬夜叉』当時のまますぎると、ママが娘を失ったことを受け入れられないでいる風になっちゃいます。子供が独立した後の子供部屋は趣味部屋や物置になるというのが実家あるある・・とはいえ、あまり変えちゃうと我々の知ってる場所だとわからなくなるので、机の上や壁にあった小物だけ片付けた状態としました。

 アニメでは序盤に日暮家にしばらくとどまっていたもろはとせつなでしたが、コミカライズではお泊まりするのは初めてですね。もろはの方は『抱擁』のアンサーとして、再会できないかごめの代わりにママとベタベタ。『犬夜叉』見てた時は子供だった層も今は大人になってますから、娘と会えなくなったママの気持ちも考えちゃうと思うのです。でも「かごめの里帰りはだめ」って高橋留美子先生に言われたんで、せめてものフォロー。

 とわが家族に「私はどうしようもなく現代よりも戦国が楽しかった」と泣き崩れるシーンは、第一話執筆時からの既定路線。アニメの日暮家は「とわのことを愛しているけれど、彼女の生き方をどうしても理解できない人たち」でした。理解できないなりに認めて送り出すというのもリアルな親の優しさだと思うんですけど、私の草太は「できれば自分がそっちに行きたいと思っててでもそれが叶わなかった人」です。だからとわの別れの言葉は、草太にとって寂しいと同時に羨ましくて眩しいものである必要が。

 バイオリンの設定をオミットしたせつなは日暮家との絆が希薄になっちゃいましたが、その分とわの戦国時代との絆を代表するという仕事をうまく演じてもらえました。ていうか現代でちょっと居心地悪そうな彼女が可愛くてしょうがなくて、私の筆はノリノリでした。

 次回はいよいよ希林先生との対決です。コミカライズでは冒頭にチラッと登場しただけの人なんですが。「中身は理玖でもある」としたことで、アニメ履修済みの方にも新鮮な展開になるんじゃないでしょうか。お楽しみに!

 


第8巻は11月18日ごろ発売:サンデーS 2024/12月号2024/11/11






もう今年の12月号です。昔からの慣習で1号ぶん早い月を使用することになってるのはわかるとしても、増刊サンデーは号数の前々月末に発売なのでひと月以上早い。クリスマスネタとか何月号に描くのが正解なのかよくわかりません。まあいまんとこそういった季節ネタの予定はないですが。

 さて、今回はとわたちが現代に戻るところまで。『犬夜叉』は戦国時代と現代をつなぐ骨喰いの井戸が閉じてきれいに終わってるわけで、そこをどうするのかはアニメ関係者も悩んだところであろうと思われます。結果として劇中数回発生する時間移動が全部別のルートになってたのを、コミカライズではあっちこっちで設定やエピソードやキャラクターを整理して〈時代樹の仕業ルート〉と、〈時の風車経由ルート〉の二つにまで絞りました。移動回数もあと一回、現代から戦国への帰還がラストになります。

 理玖がとわに斬りかかる絵面はキツめに描きました。ヒロインに刀傷を負わせることには抵抗はありましたが、半妖として出血や暴力を受け入れる必要があるんじゃないかなと。犬夜叉先輩と同じタフさがないと安心して戦国御伽草子世界に送り出せないし、女子だからと作者が手加減すると彼女たちは怒るような気がします。アニメでは血を描くのが難しかったりするんで、ここは漫画であることの強みを活かしてズバッと。まあ、半妖なので来月にはちゃんと治りますからご安心ください。

 というわけで次回は現代が舞台です。実はここの更新忘れたままもう描き終えちゃいました。なかなかいいエピソードに仕上がったと思うんで、お楽しみに。

 そしてお待たせしました、最新第8巻は11月18日発売。『MAO』22巻と同時発売ですので、ぜひ一緒にお買い求めくださいませ。

 



スタンド・バイ・ミー:サンデーS 2024/11月号2024/09/27




終盤展開に向けての仕込み回です。トビラだけでも日常のほのぼのしたワンシーンを味わってもらおうということで、久しぶりに一枚絵のトビラを描きました。双子が生まれて落ち着いた頃、記憶の時間転移が発生する直前あたりの殺生丸ファミリーです。


 さて、謎の黒幕扱いだった麒麟丸がやっと本格的にメインキャラと絡み始めました。といっても、展開を急ぐコミカライズでは基本的に殺生丸と対決します。夜叉姫には妖霊星を担当してもらい、親子で二方面の戦いを分担・同時進行することで巻いていく方針です。

 コミカライズでは顔の鱗を「妖霊星の侵食」として再解釈。みなさんがアニメを一通り見ているという前提でネタバレすると・・・・

アニメでは「折れたツノが理玖になり、腕が骨喰いの井戸に捨てられて希林になる」という流れだったのを、ツノだけにまとめちゃいました。つまり、アニメでは理玖と希林は似た境遇のキャラとして対比されてたのが、コミカライズでは理玖の変異体というか、本来の姿が希林としました。隅沢脚本の彼らは「作られた人形」が本物の魂を獲得するために足掻くキャラなわけで、それに成功するのが理玖、失敗するのが希林です。なのでこうして両者をまとめてしまえば同じモチーフを扱いつつページ数をかなり稼げるんじゃないかなと。
 だから独自展開に突入したわけではありません。私基準ではあくまでもアニメの脚色の範囲です。

 りおんは意に反して操られ理玖を陥れるという今回の動きまでは考えてあったものの、このあとどうしましょうかね。そもそも彼女は救いのない境遇のキャラです。それをうまく成仏させた脚本の手腕を汲んだ流れにしたいので、最終的な落としどころについてはコミカライズに合わせた文脈をいくつか検討中です。この先アニメと違う形で犬夜叉たちにも活躍してもらう予定で、順調にいけばちょうど10巻できれいに終われるでしょう・・・たぶん。

 4クールのアニメ作品、かなり端折った流れに脚色しているのに漫画だと3年も。始めるときからわかってはいたんですが、やっぱ大変ですね(笑)。


 

奈落ふたたび:サンデーS 2024/10月号2024/08/24




 琥珀と奈落の「もうひとつの決着」いかがだったでしょうか。「もうちょっとページがあれば・・」とは思いますが、このコミカライズはあくまでも『夜叉姫』がベースなんで、『犬夜叉』ネタはこのくらいのバランスがいいかもしれませんね。漫画用に構成をコンパクト化しつつ、そのついでにアニメではなるべく避けるようにしていた『犬夜叉」の後日譚的要素を、私の個人的な解釈や願望を交えてさりげなーく追加するという・・あんまりさりげなくないですが。いつもがっつりやっちゃってますが。

 なぜ急に羽が舞っていたのかについては劇中ひと言も触れていないものの、あれが何かはわかる人にはわかってもらえる・・はず。描いた私は当然わかっているので、描きながら泣いてました( ;∀;)。

 高橋留美子先生は「『私は風だ 自由な風だ』というセリフを書いたとき、神楽の死を予感した」とおっしゃってました。同じセリフを琥珀の力にしたことで、なんだか二人に愛情を込めてハグできた感じ。技術的には自分の漫画でも同じように構成を考えて物語を作っているわけですが、ファンとして読んでた作品に、しかも原作者チェックを受けつつ公式にこういうことができるというのは魔法のようです。二次元に行く魔法、それがコミカライズ。

 高橋先生は金禍銀禍のエピソードを執筆した際、たぶんなんですけど某古典SF漫画の某エピソードをイメージされてたんじゃないかなと思うんですよね。昔の漫画には「双子の敵」ってのは必ず一回は出てくるお約束で、登場したときから「やられ役だな」ってのはわかるのに相方との絆が印象的な良エピソードであることが多かったと記憶してます。で、紅禍蒼禍戦の決着もそれ風の禍々しくも切ない感じを狙って・・・完成したあとになってじゃっかん『葬送のフリーレン』のアウラのイメージも入っちゃってるような気もしましたが(笑)。

 TVアニメでは首を切り落とすという描写はきょうびなかなかできないんですけど、戦国時代劇らしいかなということでこの漫画では何度かやってます。『犬夜叉』の戦国御伽草子世界は、生々しい暴力の存在がちょくちょく描かれます。なのにかごめちゃんは怖い目に遭ってもさほど引きずることもなくけろっとしてて、そこがライト層向けのダークファンタジーとして秀逸。この虚実のバランス感覚こそが高橋留美子作品の真骨頂だと私は思ってて、同じことは出来ずとも姉妹作品として雰囲気くらいは出すべく首を斬ったり目玉や心臓をえぐったり頑張ってます。

 ちなみに戦国時代の戦では取ってきた敵将の首を綺麗にするのは銃後を守る女性の仕事だったとか。敵の首は戦果の証拠で、倒した相手の位によって報酬が決まるわけですから、軍功褒章会議で見栄えがよくなるように整えるコツやテクニックもいろいろあったようです。死顔の表情で吉凶を占うこともあったとか聞くんで、もうなんか現代とは感覚が違いすぎて、私はそっちに住むのは無理すぎるんですけど。とはいえ自分を守ってくれる強くて可愛い半妖の恋人ができたらワンチャン(乙女)。

孫という名の宝物:サンデーS 2024/09月号2024/07/26




 物語はいよいよ終盤ですが、城に到着してすぐ麒麟丸が出てきちゃうと「それ城というより一般庶民の家だろう」という自分ツッコミが発生するため、配下たちが出迎えることにしました。その流れにより、この期に及んで中ボス戦です。


 金禍銀禍は本来『犬夜叉』のネタで、アニメ完結編に収録しきれなかった他いくつかのエピソードと共に『夜叉姫』に挿入されたようです。放送時から「もし登場した場合、紙媒体においては二度目の登場となるわけだから、コミカライズではちょっとヒネりたいな」と考えてて、当初は「一族の中では変わり者でケンカする気がなく、でも母ちゃんに怒られるので人前でだけ仲悪いフリをしてる。それが夜叉姫たちには八百長だとバレちゃう」というのを構想してたんですよ。

「・・なんかお前ら本気で戦ってなくね?」「何を言うか、わしらめっちゃ仲悪いぞ!なあ兄者!」「弟の言う通りじゃ!もうマジ殺し合っとる!のでお前ら早くどっか行ってくれ!これ以上戦うとわしらどっちかが死んでしまうではないか」という(笑)。


 最終的にはアニメ版の女禍をベースにした若い女性の双子とし、前述の仲良し設定だけは活かして、中ボスに落とし込むことにしました。蒼禍紅禍という名前はすぐに出てきて、ということは口調は「そうかしら」「こうかしら」しかない(笑)。あとで家族に「『少女革命ウテナ』ってアニメにそんな口調のモブキャラがいる」と指摘されたんですが、私は見てないのでよく知りませんでした。まあでももし読者が「ウテナじゃん!」と思ったとしても、『犬夜叉』当時、90~2000年代アニメの雰囲気が出ていいんじゃないでしょうか・・・いやウテナ見てないので実際はよくわかんないんですけど。いさぎよくてかっこいい主題歌だけは知ってますけど。


 冒頭に登場した河童は『犬夜叉』にモブとして出てたのをベースにデザイン。私としてはさっさと話を進めたいので、あそこでああいうキャラを出すつもりはありませんでした。なのになんだかしらないけど「いったんリズムに変化をつけないと先に進めない」という警告が無意識から来て、仕方なく従ったというか。いまも「いやこのくだり省いてすぐに冥道丸出した方が話早いよな?」と頭では思ってて、でも経験上こういうときは直感に従った方がだいたい正しいんですよね。なんだろう、麒麟丸の組織に層の厚みを感じさせる描写だから・・・でしょうか。日本の妖怪というのは怖いやつや強いやつばかりではなく「ヘンテコな隣人」でもあるわけで。あと型どおりのバトルが続くよりは、この方がるーみっく風味かも。


 今回は琥珀の動きも予想外でした。本来の構想では「蒼禍紅禍vs夜叉姫」「冥道丸vs退治屋・雲母」となる予定だったのに、河童のせいで琥珀以外のメンバーが全員蒼禍紅禍の方に行っちゃって、「どうすんのこれ」と戸惑いながらキャラに任せて描き進めてみたところ、どうやらこれは琥珀が過去を克服するエピソードであるらしい。まあたしかに『犬夜叉』のラストで命は救われたものの、あのあとあっさり彼の心の傷が癒えるはずはありません。コミカライズではその部分に注目してキャラクターを描いてきてました。視聴者の想像に任されていた「アニメ版お頭パーソナリティーに至るまでのプロセス」を補完するのは、この漫画らしいかもしれませんね。とはいえ「今日ここで私の中の奈落を殺す」というセリフはかなり原作の琥珀というキャラに踏み込むもので、私自身も驚きました。おそるおそる高橋留美子先生に見せたら「面白い」と言ってもらったので、これはもう腹をくくって描くしかないなと(笑)。というわけで、次号は増ページでそれに挑みます。