オカエリナサイ :サンデーS 2025/07月号2025/05/24




実質最終話、ここで終わっても物語はとくに問題なく閉じることができます。

 理玖と希林先生を同一個体としたことで、理玖ととわたちが現代で生活するオプションが発生。海のシーンで『うる星やつら』のプール妖怪にカメオ出演してもらったのは「現代にいる間の夜叉姫と理玖にもああいう賑やかで楽しいエピソードがたくさんありそうだ」と想像してもらうためです。妖怪なのでギリギリ世界観は壊れないし・・たぶん。学園編も描きたかったなあということで、トビラはそのイメージイラスト。
 
 とわとせつなは草太のマンション、もろはと理玖は日暮家に住んでて、理玖はじいちゃんの手伝いやお世話で活躍してたようです。コミカライズ世界線の萌ママはプロの演奏者ではないものの「音大を出て教師か何かはやってるんじゃないかな?」ってことで、楽器演奏シーンも混ぜました。せつなのバイオリンは以前トビラ絵に描いたのでもういいかなと思ってましたが、電子バイオリンは新鮮な気がして採用。とわは「アニメにならって横笛? この家にあるとしたらフルート? でも演奏難しいよな?」からのピアニカ担当。バイオリンの演奏だって難しいわけですが(笑)、成長過程で現代の常識に触れて多少角がとれてしまったとわと違い、せつなにはおとぎばなし世界の住人が持つチート主人公補整パワーが原液のまま備わってる・・・という俺解釈。なので初見で弾けてしまうのです。


 帰還ルートは骨喰いの井戸と決めてました。命と引き替えに道を拓いてくれてたアニメ版阿久留の設定は完全にオミットしたわけではなく、時代樹さまと風車に分散してます。時空を気軽に行き来できちゃうとあの物語世界の根幹が崩れるので、そのために何かが犠牲になるという文脈構造は正しいと思います。なので時代樹さまが消滅したのはメタ的には阿久留の身代わりです。ついでに「時代樹の策略により、阿久留が風車を取り戻すには未来から夜叉姫ごと回収するしかなかった」という理屈も組み立てて、実はかごめからとわに宛てた手紙にそれが書かれてるんですけど・・・その説明よりもメインキャラの描写にページを割くべきだろうということで思い切って全部省略することに。「風車の力で帰って来れたんだな」って最低限のことはわかるし。

 結果、殺生丸さまが『犬夜叉』ラストシーンを再演する場面はかなりうまくいきました。漫画SFチックな理屈よりも「心から信じて愛すれば、おとぎばなしの世界はあなたを招いてくれる」という感傷的な主題を軸にしての時間移動、そしてそれを体現して迎えに来てくれるのが殺生丸さま・・これ『犬夜叉』ファンの夢そのものじゃないでしょうか。もう誰が何と言おうとコミカライズではこの描写しかない・・いやまあ高橋留美子先生がNGって言ったらダメなんですけど。でもちゃんとOKいただけたし褒めてもらえて嬉しかったです。
(*^_^*)

 もろはの荷物は昔かごめが使っていたリュックにする予定でした。が、わかりやすく巨大にした方が面白いし、お別れする前にかごめちゃんには大量の物資を届けておきたいという私の意向もあり、あのように。「どう考えても井戸をくぐれない」というツッコミは野暮です。あれでもデジタル調整でギリギリ許容範囲の嘘になるよう、だいぶ小さくしたんですよ。実際に通れそうなサイズにすると小さすぎてつまんなかったので是非も無し。


 最後のページは「空の彼方に飛んでいく殺生丸さまで締める方が読後感いいかもしれない」と悩みました。が、私は残された日暮家の視点で終わることを選択。「『高橋留美子作品への愛を語る私の作品』として描きたい」と思って始めたコミカライズなので、物語が終わるときの視点は御伽草子世界ではなく現実世界側なのが私にとっては正解なんです。でもそれは読者にも「残された側」の視点で終わることを強いるわけで、だいぶビターエンドです。「どうしよう・・・実質最終回なのに・・・」となったところで、「いや次が最終回なんだから、ここはビターに締めてもええやん」と気づいた次第です。つまり実質最終話というのは別に最終話じゃないけどそういう最終話もあるという可能性を示せる回ですね。

 というわけで次回、真の最終話! 裏の最終話とか新たなる最終話とかはないです。アレンジしつつも大枠はアニメに沿って進めてきたコミカライズ、アニメの流れ通りにちゃんと終わります。最後までそのスタイルを貫いてちょこざいなアレンジをたくさん仕込んでますんで、完成をお楽しみに!

決着:サンデーS増刊 2025/06月号2025/04/25



 ようやく描けた麒麟丸と殺生丸の戦いの終わり、いかがだったでしょうか。

 アニメはあくまでも夜叉姫の物語に主眼をおき、『犬夜叉』後日譚であることを最小限に抑えた作りでしたが、コミカライズは『犬夜叉』外伝二次創作として殺生丸を背骨に据えて再構成。主人公として娘たちの成長を描きつつも、実は殺生丸の成長の物語でもあったという仕掛けです。なので最後は殺生丸と麒麟丸の一騎討ちで締めました。「一撃で勝負が決まり、一瞬敵が勝ったかと見せて実は主人公勝利」の演出は、子供の頃から何度も見てきたベタすぎる流れやなあとは思いつつ、でもここはそれしかない・・というか他にもっといいのを思いつかないのでベタにやらせてもらいました。


 りおんと麒麟丸の関係等はだいぶ端折ってシンプルに。単純に「正気をなくしてワルモノになってた」としたことでページ数はだいぶ省けた一方、悪役としては薄味になっちゃったかもですね。アニメの終盤とは麒麟・殺生の力関係がいろいろ逆転しちゃったりもしてますが、でもまあ「麒麟丸もまた、殺生丸が救いたい家族のひとりだった」「少年の日の憧れで、亡き父と重ねていた」という別方向の厚みが入ったし、アニメオリジナルの名作『天下覇道の剣』続編っていう趣も増したので、これはこれでヨシ。あと「<麒麟丸が希林先生をぶん殴る>が<殺生丸が麒麟丸をぶん殴る>に変わってる」という細かすぎるネタに自分でウケてたんですけど・・細かすぎてどうでもいいか(笑)。


 今回の私のお気に入りシーンは実は決闘よりもエンディングよりも、「殺生丸への思いを語る邪見」です。あの二人の出会いはTVアニメ版『犬夜叉』のオリジナルエピソードで描かれていて、滝で人頭杖を授かってる回想はそこを拾ったものですね。アニメではちょっとコミカルに描かれて邪見さまは「キレー・・!!」とか言ってますけど、「戦場で出会った殺戮の天使・殺生丸の強さと美しさに一目ぼれして、すべてを投げうって生涯を捧げる」とか何それエモくてたまんねえ。その心情を語る年老いた邪見さまにそっと寄り添う琥珀ってのを追加できたのは、邪見ファン&琥珀ファン冥利でした。小さいシーンではありますが、高橋留美子先生の戦国御伽草子世界を巧みに掘り下げた隅沢先生への敬意と、私からのキャラクターたちへの愛を込めて。劇中の殺生丸さま同様、私も高橋先生や隅沢先生の背中を追いかけているのです。


 さて、これで物語の戦いはすべて決着です。次回はページ数を増量してのエピローグその1、現代編。思った以上にいいネームが出来上がって高橋留美子先生と担当編集者に褒めてもらいましたので、楽しみにお待ちください。


機動戦士銀骨:サンデーS 2025/05月号2025/03/29



というわけで、アニメ版の「漆黒の飛来骨」に代わる珊瑚の武器は銀骨先輩ということにさせていただきました。正確には銀骨のガワだけですけど。

 七人隊についてはどこかでチラッとでも触れられないかとずっと考えてました。でも出すとキャラが立ちすぎて『夜叉姫』の物語の流れを壊しちゃうんで、私にはこれが限界でしたすいません。ファンが期待するのは銀骨じゃないだろうとは思うものの(笑)、彼らとの戦いがあったというあの世界の過去に触れつつ、退治屋ならありそうな設定でのカメオ出演にはなったかなと。

 実は数話前とわたちが理玖を追って現代に戻るとき、時空の裂け目で道に迷って過去に行ってしまい『犬夜叉』の世界にちょこっと乱入しちゃうってアイデアもあって。(それなら七人隊も含めていろんな過去キャラが出せるぞ)(なんなら過去の両親と絡んでバック・トゥ・ザ・フューチャーごっこもできる)(最後は神無が鏡で誘導してくれて未来に戻る)とか二次創作の夢が広がって一瞬ワクワクしたんですけどね。でもこのコミカライズはあくまでアニメ『半妖の夜叉姫』をベースに、漫画としてコンパクトに再構成するのが任務です。アニメの放送終わってけっこう経ちますし、まっすぐ結末に向かわずにそんな面白すぎる寄り道してる場合じゃねえだろうということで断念。

 二つの時代・複数の場所での戦いが重ね合わせでひとつになるというプロットは物語のショートカットとしては悪くないと思うんですが、実際描いてみたら場面転換するたびにその説明でモタついてテンポが悪くなると気づき、ネームには苦労しました。妖霊星の視点でわけもわからず一方的に次々殴られるって切り口を思いついてギリどうにかなった感じです。りんちゃんにも活躍して欲しかったので彼女の狙撃を最後に持ってきて、それがダメ押しになったかのように印象操作。実際にはたぶん銀骨砲が致命傷なんですけど(笑)。犬夜叉とかごめ、本家主人公コンビの連携攻撃を描けたのも嬉しかったな。

 そんなこんなで高橋留美子先生からは「勢いがあって面白かったですよ」とのお言葉をいただいて、最後の難所・オールスター登場クライマックスお祭りバトルイベントをなんとかクリア。次回は殺生丸と麒麟丸の関係の決着となります。

「ディティールを再構築して別物になりつつも、枠組みはアニメとの相似形を保った物語」をラストシーンまで貫けそうです。

この物語はフィクションであり、実在のタワーとは以下略:サンデーS 2025/04月号2025/03/22



 最終決戦はアニメに合わせて某タワーです。アニメでは上層に広い足場があって、姫たちはそこに陣取ってます。調べたら実際にはそれらしい構造はありません。「劇中のは架空の建物で、デジタル地上波放送アンテナの上に足場がある」ということでご了承ください。

 東京・・じゃなく某ドーム球場のエピソードはカットしたものの、グーグルマップで確認したら首都高からドームが見える地点があったので、そこで一応ちらっと描写。ちなみにもろはのセリフ「穏やかじゃねえな」は声優さんとサンライズ作品に引っ掛けた小ネタです。ついでにどさくさに紛れてカメオ出演(?)の一刻館、実際のロケーションは当時高橋留美子先生が住んでた東長崎あたりのイメージだそうで、だとすると練馬から都心方面に攻撃が向いてる状況で出てくるのは本当はおかしい。とはいえ、高橋先生に怒られるかもしれないと思いながらも出さずにいられないという、私のこじらせたファン心理。

 地球をサッカーボール大とすると、月はテニスボールくらいで、軌道半径は7メートルほど。意外と離れてますね。でも宇宙のスケールでは別の小天体がその距離を通過するというのはニアミスもいいとこです。数百年の周期でそんなに接近するなら、何億年というスパンでは衝突不可避じゃないかって気もしますが、まあその辺はなんかこう、妖力とか天照大神の神通力でええ感じになってるんじゃないでしょうかね。「日本の上空に現れる」というのも霊的なカラクリで成立してると解釈し、妖霊星の設定はあのように。「だから所縁の截ち切りでどうにかなる」という理屈につなげました。

 決戦でのとわちゃんはやっぱ初期設定のスーツでないとあかんやろ・・ということで、車の中でお着替え。そしてコミカライズの流れなら「スーツ姿で戦う理玖」を描けることに気づきました(笑)。

 多少強引にではありますが、クライマックスにオールスターキャスト集結の準備も完了。なんとかアニメに近い流れで着地できそうです。ただ、コミカライズ版の珊瑚さまは妊娠3〜4ヶ月という設定なもんで、お腹はさほど目立ってないとはいえ、あんまり大暴れさせられないなあと。で、「漆黒の飛来骨」の代わりになる飛び道具を考えてみたんですが・・いま温めてるアイデアは文字通りの飛び道具というかちょっと反則に近いものなので、実際に絵にしてみないとアリかどうかまだよくわかりません。のでまあ、使うにしろ使わないにしろ、その詳細については次回。

 あ、そうそう、前回かごめの隣の布団で寝てたのは犬夜叉です。夫婦だから当然枕を並べて寝てる・・・と私は思って描いてたんですけど、あとで家族に「いやこれ、りんちゃんがそこにいるはずだったという描写にも見える」って言われて「あ」って(笑)。『犬夜叉』後の日常生活をさりげなく描写する貴重な機会だったのに、私としたことが。

お父さんといっしょ:サンデーS 2025/03月号2025/01/25



 ドラマはいよいよ終盤です。アニメを再構成してシンプルな漫画のフォーマットにまとめる作業は、残り話数の計算も加わっていっそう厳しくなります。


 そんな中、私の個人的な主題「残された人たちの想い」を完結させることができて、仕上がりにはかなり満足してます。コミカライズ版では草太くんが裏の主役で、私の分身です。もろはとせつなと共にとわを救いに行く道を、『犬夜叉』でかごめを救いに行った団地脇にするというのを思いついた時にはガッツポーズでした。戦国御伽草子の世界に行くことは叶わなかったけれど、彼自身があこがれの人のロールを演じることで、満たされなかったものに決着を得たという。物語によくある「彼は君の中に生きている」というやつを、草太は身をもって実感してくれたのではないでしょうか。いやまあ犬夜叉先輩は戦国時代で元気に生きてますけど。


 アニメ版の希林先生の狂気というか不完全さは、戦国御伽草子における妖怪の精神構造の不気味さのバリエーションでした。そこをオミットしたのはちょっと惜しいものの、理玖と同一人物としたアレンジは、理玖の主題を短いページでうまくまとめるアイデアだったと思います。現代と戦国時代がシンクロする構成にしたまではよかったけど、麒麟丸と殺生丸は何ヶ月もお見合い状態になっちゃったので(笑)、早いとこ決着に持って行きたい。



 とわが希林先生の誘惑を退けるくだり、直前までは「日暮家と過ごした時間も大切だから捨てるわけにはいかない」で済まそうと思っていました。ところが執筆中にとわと丸さまから「このシーンについてちょっと提案があるのだが」という電波を受信。協議の結果「貴様が気に入らないからだ!」とさせていただきました(笑)。たしかにその方が彼ららしい。こういうアドリブの例はこれまでも何度かご紹介したとおりで、 キャラクターからの提案を受信するのは漫画執筆の醍醐味です。頭でシナリオを作ると論理的な整合性で組み立てるばかりになりがちなんですが、キャラクターを実在する仕事仲間・創作のパートナーとして扱っていると、こういう理屈を超えた飛躍を持ち込んでくれるのです。美神やチルドレンにはずいぶん世話になったけど、まさか高橋留美子先生んちの殺生丸さまともそんな関係になれるとは想像もしてなかったわ。あと「邪見様を抱き上げる琥珀」というのも実は琥珀のアドリブで、描きながらこっそりニヤニヤしてました。『犬夜叉』後の琥珀の成長を感じて「大人になったなあ」って。



 楽しい仕事で、三年はあっという間でした。あと数回でキャラクターや作品世界とお別れするというのはひじょうに名残惜しいです。きれいに完結させなきゃっていうプレッシャーもありますけど。これ終わって次の自分の企画どうしようという不安もありますけど。

 完結までもうしばらく妖霊星との戦いに決着がついて、麒麟丸と殺生丸の戦いにも決着がついて、とわたちが戦国時代に戻るまでおつきあいください・・・・まだけっこうやることあるな。