オマージュすること火の如く:少年サンデーS 2023年/1月号2022/11/27


『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』単行本1~3巻、好評発売中です!

 今回はおおまかに3パート構成です。

 最初のパートは秀吉編エピローグ。のちに天下人となる藤吉郎が内に秘めたエネルギー、ヤバい面を、妖怪と重ねました。作中に出てくる大人の男性は夜叉姫にとっては父性の物差し・投影対象でもあります。琥珀や草太のような暖かい人間とは違う種類の怪人物を出すことで、殺生丸さまへの不安を抱くように仕向けたのです。

 で、そのとわちゃんとせつなちゃんの不安を受けて始まる中盤。殺生丸さまが妖怪であっても愛情深い人物であると読者に明かしつつ、『犬夜叉』と『半妖の夜叉姫』の間にあったはずの、りんとの関係の変化を描いた場面。(コミカライズでは『犬夜叉』への依存・連携を強めたため、二人の関係が変わるプロセスは必要だろう)と考え、だいぶ前から「人間の恋愛描写とはテイストの違う、幻想的な演出の<概念的ラブシーン>を作れないか」と高橋留美子先生に相談してました。

「初対面で水をかけたのは、殺生丸を神様だと思っていたから」というのは、高橋先生がQ&A記事で答えていた裏話を拾ったものです。だからあそこは私の創作じゃなく史実。ただし、実はアニメ版『犬夜叉』ではりんちゃんが水をぶっかけるくだりはカットされてまして、ということはそこを擦るのはアニメ時空としてはレギュレーション違反ですね。とはいえ原作読者ならあの出会いは強く印象に残ってるはずで、執筆当時に作者の中にあったイメージ、いわば「語られざるエピソード」を追加してそれを土台にすればシーン全体に説得力が生まれます。だもんでこのネタを使わない選択肢はなかったです。

 そんなこんなで出来上がった殺生丸さまとりんちゃんの超モフモフシーン、高橋留美子先生には「いいですね。ファンも喜んでくれると思います」というお言葉をいただきましたんで、みなさんの心もモフモフすることを祈ります。

 最後のパートは・・・・まさかの『人魚の森』ネタ(笑)。

 いや、ほら、前回是露さまは「待てない殺す」って言ってたから、京都に着く前になんか仕掛けてくるはずじゃないですか。で、「竹林で怪しい霧に遭遇した夜叉姫の前に、怪しい美少女が怪しい感じに現れる」ってイメージが浮かんだので掘り進んだら、なぜかこうなったという。名前がかぶるのを避けてちょっともじりましたけど、どう考えてもキャラも構図もこれしかないだろという謎の確信(笑)。そのまま高橋先生に見せて「やっぱヤリスギっすかね」「笑っちゃったので今回だけは許す」となった次第です。人魚シリーズは漫画読みの心に突き刺さるマジすごい傑作ですので、未読の方はぜひ読んで。

 ところで「五里霧中」は中国・後漢時代の伝説が元ネタで、この「五里四方を覆う霧」というのは人を迷わせるために仙術で発生させたものなのだそうです。理玖のセリフにこの言葉が自然に出て、あとで辞書で調べて「へー! まさにこのシチュで言うべきセリフじゃん!」って思いました。キャラが私の知らない知識を元にアドリブで喋った・・・あるんだ、そんなこと。



疾風(かぜ)を駆け抜けて:少年サンデーS 2022年/12月号2022/10/26



 単行本最新第三巻、好評発売中です! この巻からは七宝ちゃんと御母堂様が参戦。弥勒・珊瑚夫妻の後日談や、お約束のお風呂シーンもあるよ! 理玖・りおん・竹千代も仲間に加わり、殺生丸さまの爆砕牙が炸裂し、犬夜叉・かごめの現状も明かされます・・・・令和リブート版アニメ『うる星やつら』も始まったことですし、「書店様の『高橋留美子フェア』に堂々と紛れ込む椎名高志」という漫画史に残る貴重な小ネタに参加する意味でも、ぜひお買い上げくださいませ。

 さて、今月号の『夜叉姫』は・・・・

 アニメの愛矢姫は翡翠と縁のあるキャラですが、コミカライズ時空でもこのあと出会うかどうかはいまんとこ不明。彼女の「おてんば」を、「元気すぎ」とか「ワガママ」から一歩踏み込んで、「武家社会に息苦しさを感じている子」と解釈しました。アニメでもそんなことを言ってましたし、そこに焦点を当てると自分の居場所を探すとわと重なるなと思って。その上で「世の女子たちを元気にしたい」と言わせ、物語が重くなりすぎないようギャグにしつつも救いをあげたかったというか、彼女が自分を救えるようにしてあげたかったというか。

「天下を~変えとうござるよ~♬」って歌詞、自分ではめっちゃ笑ったんですけど読者に伝わるかどうかは不明。メンバーにはのちの『軍師官兵衛』がいるんですが、秀吉回なのにそこはうまく拾えませんでした・・・あ、いや、「武威六人隊」は架空のオリジナルキャラであり、実在の人物・グループとは無関係です。

 

 是露さまは蝶の意匠を身にまとってて、武器は蜘蛛がモチーフというキャラですが、あれ、彼女の二面性を象徴してるんだと思うんですよね。そこで私は彼女は特定の生き物ではなく「虫の神秘的な生命力」の化身であるとし、「分身にスズメバチを使う」という設定を追加。獰猛さと優しさ、美しさと醜さ、矛盾するさまざまな要素の根っこにあるのは「幸せになりたい」と願う小さな生命のいじらしさや儚さ、強さや激しさである・・・という解釈です。今回のために海洋堂さんの可動フィギュア『リボジオ オオスズメバチ』買いまして、これがものすごい出来で作画資料としても素晴らしく、たいへんありがたかったです。

 今回の話にりおんちゃんは出番がないと思ってたんですが、夜叉姫たちを見守る存在に彼女だけが気づくというのは自分でも予想外でした。原作アニメで「犬夜叉・かごめは黒真珠の中からもろはを見守っていた」とあったのを回収するネタです。

 過去編で犬夜叉が家族についての思いを語るシーン、あれ実は「もろは」という名前の由来につながってます。早く本人に伝えられるといいですね。

 殺生丸夫妻の新婚エピソードは結局持ち越し。予定では犬夜叉が「殺生丸の奴も今こんな気持ちなんだろうか」って振るはずだったんですけど、それだと話のついでって感じになって構成のバランスが悪い気がしたため、もう分けちゃうことにしたのです。次回じっくり描けると思いますんで、ご期待ください・・・いや、まあ、あくまでも「高橋留美子じゃない他の作家、私が考えた、妖怪と人間のラブストーリーの断片」ですので、過度な期待をされても困りますが(どっちだ)。


ほぼ『犬夜叉』番外編 :少年サンデーS 2022年/11月号2022/09/25



 三姫のパートと同時進行だし、もうちょっと「過去のちょっとしたエピソード紹介」風になるかと思ってましたが、当初の目論見以上にがっつり『犬夜叉』二次創作になっちゃいました。


 毬を持ってる幼少期の犬夜叉はアニメ準拠。私の中では藤吉郎もCV・山口勝平さんなので、犬夜叉と二役、しかも両方とも大人バージョンと子供バージョンが登場し、(アニメだったら山口さんの独壇場)と妄想しながらの執筆です。


 トビラはせつな+バイオリン。コミカライズでは萌ママと絡むヒマがなく、でも(バイオリンの誕生は1550年頃・・・宣教師が持ち込んだということにすれば、持たせること自体は可能だな)とは考えてたんですけど、漫画は音が出ないんですよね。なので無理に登場させても演出上の意味は薄まるだろうという判断で、残念ながら本編ではオミット。せめてトビラ絵だけでもってことで。


 その代わりと言ってはなんですが、姫君コスのせつなちゃんはアニメのイメージの再現ですね。ただし翡翠とは絡められなかったため、姉と従姉妹に「可愛い!!」とアニメ以上に騒いでいただき、ついでに理玖の女装もねじこんでみたという(笑)。


 藤吉郎がそれなりの地位にいることを見せるためには部下がモブだけじゃあかんやろということで、竹中半兵衛も登場。デザインは晩年の肖像画に寄せました。「若い頃は細くて女性のようだった」という説もあったそうで、コスプレ・女装作戦の立案者という場面でそれを活かせなかったのは痛恨・・・なんだけど、それが事実かどうかは怪しいらしいので、まあいいや。秀吉のところにはもうひとり黒田官兵衛という軍師がいて、二人で「両兵衛」と呼ばれ出世を支えてきたのですが、そちらが仲間になるのはたしかもうちょっと後のことです。弟の小一郎(秀長)も出したかったけど、そちらは荒事よりも事務方の担当であろうということで・・・いや、まあ、そういうリアリティーラインの漫画じゃないってことはわかってるんですけど、つい。


 宇宙ガラのトーンで冥道残月破を再現するのは手間がかかったけど楽しかったな。(原作最強の冥道残月破がわりとあっさり雑魚敵に凌がれちゃうのはどうなんだろう)という心配もしつつ、でもいちおう高橋先生には「面白いんじゃない?」とのお言葉をいただいてますので、話の都合ということでご了承くださいませ。岩魔人あらため「岩魔」の強さの理由と、当時の殺生丸夫妻については次回。たぶん。殺生丸夫妻に関してはそれなりにページを割きたいので、その次になる可能性も・・・まあ、なるはやで出せるよう頑張ります。


連載一周年 :少年サンデーS 2022年/10月号2022/08/26




 今回から単行本第四巻収録予定ぶんです。体調管理・スケジュール調整のために少しページ数は抑えめで進行します。といっても32Pは月刊連載としては十分なボリュームなんで、これまで特盛りで描いていたことをむしろ褒めていただきたい。



  夜爪の目玉をえぐって自分に移植するダークな理玖くん、いかがでしたでしょうか。ずっと温めてたネタで、描くのを楽しみにしてました。夕方放送のちびっ子向けTVアニメではこっち方向の描写はやりづらいですが、コミカライズでならこれくらいの方が戦国御伽草子らしいなと思って。整った見た目に反し、造られた存在である哀しみと残酷さを剥き出しにして一人称が「俺」に変わるくだり、高橋留美子先生は喜んでくださいました・・・「先生はこういうのお好きじゃないかなあ」と思って描いたので、「よっしゃあ!」という(笑)。


 目玉が四つある夜爪のキャラも流れに組み込めて、彼もあの末路は本望ではあるまいか。残り二つは予備として塩漬けかなんかにして保存しとくんだと思います。ちなみに夕方のTVアニメではやはりちょっとアレな理玖の全裸も力入れて描きました。そういえば私が関わらせてもらったアニメ『GS美神』『絶対可憐チルドレン』は、どっちも日曜の朝だというのに・・・まあいいや。



 魔改造しすぎて元ネタの面影はなくなっちゃってますが、新章はアニメのいくつかのエピソードを混ぜて錬成してます。ゲストは愛矢姫(役どころは変わります)に加え、コミカライズ版限定オリジナルキャラとして木下藤吉郎こと若き日の豊臣秀吉が登場。アニメの愛矢姫はお父さんが「関東管領・扇谷柊弾正さま」じゃないですか。ああいう肩書きって中世のリアリティーがあってかっこいいなと思ったんですけど、コミカライズは武蔵国から離れちゃってるんで、じゃあ代わりにいっそ歴史上の有名人出したらどうかなって。


 劇中の設定は1567~8年ごろ、信長上洛の直前。『犬夜叉』初期エピソードに「織田家の『うつけ』とは別人の武田家の信長少年」が出演していること、戦国時代のターニングポイントとなるこの時期が『夜叉姫』にふさわしい等を考えての考証です。となると戦国クラスタの方はピンと来ると思うのですが、藤吉郎は前の年に「墨俣一夜城」で名を上げており(注1)、この後「金ケ崎の戦い」でさらに出世、本格的な戦国武将となります(注2)。つまり現在の身分は高すぎず低すぎずでキャラクターとしての自由度が高く、しかも十五年ほど前、夜叉姫たちが生まれた前後には駿河国で今川家の家臣に仕えてて、そのすぐあとなぜか尾張に戻って織田信長のところに再就職してるという・・・・プロットに組み込みたくなる条件が揃いすぎてて、誘惑に勝てませんでした。

 あとアニメで犬夜叉役を演じた山口勝平さんが実は戦国マニアで、秀吉役を演じてもいらっしゃいます。なので「もしアニメだったら山口さんは犬夜叉と藤吉郎の二役」と想定した私の遊びというか、その予定もないのにアテガキ(笑)


 本来の戦国御伽草子の世界は「るーみっく味のライトダークファンタジー物語世界」で、こういうことはあんまりやらないですけど、アニメ『夜叉姫』は「古典的むかしばなし」方向にリアリティーラインを動かしてるし、コミカライズはちょっとだけ「椎名風タイムトラベルSF」寄りに。

 のちに時代に巨大な爪痕を残す妖怪的怪人物・秀吉を狂言回しに、『犬夜叉』と『夜叉姫』の狭間の出来事に触れつつ、同時進行で是露さまと夜叉姫の対決を進めたいと考えてますんで、たぶん出てくるであろう犬兄弟の新婚時代を楽しみにお待ちください。高橋留美子ファンと比較しちゃうと圧倒的に母数が少ない椎名高志ファンのみなさまは「信長さまは?」と思ってくれてる・・・・気がするんですけど(笑)、それはまあ流れ次第ですかね。



注1:1566年、「敵国(美濃)の領内にある戦術上の重要拠点に橋頭堡を築け」という信長の無茶振りを受け、家臣たちはバカ正直に攻め込んでバカ正直に工事しようとしてはボコボコにされていた。業を煮やした信長は現場マネージャーとしての才覚を見込んだ藤吉郎を任務に抜擢。藤吉郎は「事前に加工しておいた材料を搬入し、現地では一気に組み立てだけを行うプレハブ工法」「建物を作る前にまず防御柵を築く」という工夫で見事にそれを完遂。実際には柵の建設だけで数日かかったそうですが、敵の目前であっというまに砦を築いた鮮やかな手腕は「一夜城」として評判に。

注2:1570年、天下盗りの道が見えてきた信長は、調子に乗りすぎて思わぬ妹婿の裏切りに遭い、軍団壊滅・討ち死にもありうる絶体絶命の大ピンチに。信長軍本隊を撤退させるため、藤吉郎は<敗走しながら交戦することになるので全滅するのはほぼ確実>という最後尾部隊を自ら志願。同じく決死の覚悟で援護してくれた徳川家康と共に、多大な犠牲を出しつつもなんとか無事に撤退作戦を成功させ、その功績で譜代の重臣と肩を並べる地位に昇進。この時点ですでに、無名の農民の小せがれからの、異例も異例な大出世であった。

まったく清らかな関係です :少年サンデーS 2022年/9月号2022/07/26




 この二人の間になんかあったとはぜんぜん思わないんですけど(笑)、<命令に疑問を持つ渾沌にエロく詰める是露さま>という絵面をひらめいたとき「あ、これだ!」って。この絵だけで<王の不在に家臣を魅了して操る危険な女>って暗示になるし、少ない手数で<ロマンチストな騎士・渾沌><その兄をサポートするツンデレ窮奇>という、ちょっと面白いキャラ立ちに誘導できます。
 渾沌と窮奇が兄妹というアレンジは敵キャラの重心を渾沌に絞り込むためでしたが、是露様のアドリブのおかげで三人ともがなかなかいい人物像にもなった感触です。物語を作る人にはわかってもらえると思いますが、いいキャラというのは描き手の意図しないアドリブをひょいっと加えてくれることがあります。脚本の隅沢さんやキャラデザの菱沼さんがこめた魂、お借りしてる私のところでもそんな仕事をしてくれるほど活き活きしたものだってことではないかなと。

 ここまでが単行本第3巻収録。物語全体を三幕構成で考えると、第一幕終了ってところですかね。次回からの第二幕では是露さまを軸に進めたいと思います。

 コミカライズ時空における犬夜叉夫妻の状況を開示した終盤の展開はいかがだったでしょう。あの二人、実はりんちゃんの隣にいたという衝撃の事実(笑)。冒頭の牛車のくだりと同じく、ここでもキャラクターを一カ所に集中させ、物語の進行を早めております。3人一緒にいればまとめて救出できるわけで・・・じゃあ全員黒真珠の中にいてもいいんじゃないかって案もあったんですけど、まあ「真珠」が二種類出てくるのはややこしいし、こっちの方が風情もあるかなと。それに外から見ると眠ってる体ですけど、コミカライズ版の設定では彼らは・・・おっと、この先はまたのちほど。

 この世界線での「救出」がどういう形になるのか、何をどこまで救うのかは今後の展開をお楽しみに。