三ノ章『戦国の絆(後編)』:少年サンデーS 2022年1月号 ― 2021/11/29
アニメ原作で描かれていた三姫の生い立ちは、「おとぎばなし」を意識してのファンタジー風味ですね。とわちゃんとせつなちゃんの「結界で守られた森の中で二人だけで育ち、悪い魔女の手先にその楽園を襲われた」というのはたいへんロマンチックです。一方コミカライズでは、戦国武家の子供が体験しそうな悲劇のイメージに仕立ててみました。前回キャラのシーン移動を牛車を使って簡略化したのを受け、「戦」のイメージが必要だと思われたので。
『源氏物語』の六条院御殿がモデルの豪華な寝殿造りのお屋敷で「本気出した殺生丸さまの甲斐性」をさりげなく(?)描写したところ、そこから「無女をアンドロイド乳母に見立てる」というアイデアが出て、「妖怪はときに恐ろしく、人間とは異質な存在だけれど、夜叉姫たちにとっては仲間や家族でもある」という物語にまとまりました。
無女と一緒にいる小鬼、あれはもともと殺生丸さまが犬夜叉を陥れるため、無女演じる母君をいじめる役にキャスティングした「カナシバリ」という妖怪です。私はあいつらめちゃめちゃ好きで、あの眉毛と目つきやら体型やら着物やら、なんかもう全部ツボすぎてたまりません。キモカワ。そこで今回無女さんに再出演いただくにあたり、どうしても彼らも一緒にいて欲しくてお呼びした次第です。女房装束の妖怪の周囲にああいうのがたむろしてると雰囲気盛り上がるんで、「以前殺生丸さまの座組みで仕事して以来、その後も同じ現場で組むことが多くなった」的な俺設定・・・現場あるある。
髭を剃って目つきが変わった渾沌さんはですね、高橋留美子先生との打ち合わせで「椎名版では敵キャラの美形度を上げると面白いかも」って話が出たのでやってみたんですけど・・まあ、「椎名時空に来るとそうなんのかwww」ということで(笑)。
ついでに「かっこいい邪見さま」を描きたいという私の個人的な欲望も炸裂させてみました。七人隊にビビりまくっていたことなどを考えると、雑魚はともかくネームドの中ボス級相手にそんなに強いようには思えませんが(笑)、ここで何があったのかは後ほどもう少し詳しい顛末が出てくる予定。今は「子供たちを守るためにがんばった」ということで、アニメで邪見さまを演じておられるチョーさんの魅力的なあのお声を、『ガンダムUC』のギルボアさん風の芝居で脳内アフレコしてくださいませ。「ティクバを・・家族を頼む・・!(ドカーン)」
言うまでもなく、ラストのとわちゃんのナレーションには、大勢に愛された名作『犬夜叉』、そして『夜叉姫』への私の思いをこめてます。アニメOP風に走り出すところでは、一期前半の主題歌『NEW ERA』を脳内再生してもらえると盛り上がるのではないかと思います。ていうか、意識して作りました。「走りだそう 連れて行こう 約束の場所へと」という(笑)。
エピローグで封印されているりんちゃん改めりん様のイメージは、きちんと着付けた襦袢だと江戸時代の武家奥方風な気がしたので、もう少し古風な単袴と薄衣(ただし諸事情によりスケスケではない)に変更はしたものの、他は原作を踏襲。「大枠としてはアニメと同じ物語です」という意思表明でもあるんですが、まあ何度も言いますけどどこまでを「大枠」ととらえるかは人によって違うでしょうし、キャラの立ち位置や動機を含めて各所にアレンジは加えていきますので、原作アニメとは別物っちゃ別物、でもその世界線は意外なほど近いよという。私としてはいまんとこいいバランスと距離感で構成できてると思うんで、原作の何をどう活かし、どういう意図でどうアレンジしているのかを楽しんでくださいね。
というわけで、ここまでが序章・旅立ち編です。この三話を収録した単行本第一巻は1/18ごろ発売予定、カラーページも再現した豪華仕様となっておりますので、ぜひお買い求めください。次号、新展開が始まる第四話の舞台は、成長した琥珀くん率いる退治屋の里となります。またコミカライズ世界線ならではのサプライズをご用意しつつ現在鋭意執筆中ですので、楽しみにお待ちください。