TVアニメ『THE UNLIMITED 兵部京介』 第十話:遠い楽園 -Original Sin-2013/03/16

『THE UNLIMITED 兵部京介』
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 兵部もヒノミヤもユウギリも生きてましたね!
 まー我々としては物語が当然あるべき道筋に沿って進めているつもりなのですが、全く予想のつかない人もいればサプライズがないと文句言う人もいます。私としては美しい構成で主題がドラマチックに描かれているということが重要で、その意味では『UNLIMITED』はかなり高得点な作品だと思ってます。

 さて、今回は最終決戦に向け、キャラクターそれぞれが自分の立場と覚悟を確認するというエピソード。派手なアクションはなく、登場人物の心の機微が描かれる回です。


 まずもっとも重要なのは、兵部に新しい学ランを持って来たのは誰かということですね(笑)。いやこれ、シナリオ会議で大まじめに議論しましたよ・・・だってクライマックスへの旅立ちはやはり新しい学ランでビシっと決めたいじゃないですか。
 でまあ、その辺は注意して見てるとわかるという作りになりました。あの人物は面と向かって兵部に親切にするにはいろいろと立場やいきさつがあるのだけど、それでもやっぱり味方になってやりたいとは思い続けているわけで、「お前の生き方を認めることはできないが、お前がそういう奴だということはわかってるさ」という気持ちを込めた、ささやかな手向けです。まあ、ただ単に主婦の本能として破れた衣装を見たら直すか新調するかしたくなっただけかもしれませんが(笑)。
 着た瞬間兵部には贈り主がわかったはずで、それを着てラスボス戦に出発する彼の心情についてはみなさまでご想像くださいませ。

 そしてふと気づいたけど意識不明の兵部を全裸にして病院パジャマに着替えさせたのは誰なのか。賢木か不二子が有力ですが、まーこの世界ではテレポートで服替えられるんだっけ。
 もちろん賢木は兵部をがっつり診察・治療してて、兵部の方も自分がバベルに助けられたと知った瞬間からそれはわかってたはずです。ということは「お前もいたのかヤブ医者」というのはせいいっぱいの強がりで、賢木がその兵部にとうとう最後まで直接目を合わせないのは、彼の優しさではないでしょうか。



 で、次に重要なのが、薫と兵部の対決シーン(いやこっちの方が重要だろう)。

 年若い薫には、兵部が背負った過去の重さが理解できません。でもだからこそ明るい未来をまっすぐに追い、大人になることを望む存在です。彼女の説く理想は彼が求めている救いそのものであり、戻りたいと切望する世界の扉なわけですが、提示されればされるほど、兵部は逆に、もうそこには戻れない自分を確認してしまうという。そしてそれでもやはり、その輝きはずっとそこにありつづけていて欲しいと願っているのです。

 このシリーズで平野さんに兵部少年を演じていただいた理由がまさにここ。兵部の分身である薫、つまり「傷を負う前の自分自身」からの説得というのは、悲しくて美しい構図ではないでしょうか。兵部の薫への感情は結局のところ自己愛で、薫の中に「そうありたかった理想の自分」を見ているという。そういや兵部が「自分を追放した太陽に恋い焦がれる吸血鬼」であるという話は前にもしましたね。前回兵部はそこにはない太陽に向かって手を伸ばして力尽きてたわけですが、それはまあそういうことなわけで。そして薫のリミッターのシンボルは太陽。

 さらに、解り合えない兵部に心を痛める薫を抱きしめる皆本というのは、ヒノミヤの求める理想の形です。ノーマルとエスパーである二人が、そんな垣根を意識することもなく、ただ心を通じ合わせている姿。

 サブタイトルの「遠い楽園」というのは、この二つを意味しているわけで、猪爪さんの脚本マジ美しすぎてヤバい。だってスピンオフ作品の主人公二人共が、オリジナルの絶チルを「たどり着けない理想の世界」であるとしているのですよ。そしてその思いが『UNLIMITED』のクライマックスに挑む決意に昇華される・・・・・スピンオフ作品としてめちゃめちゃ美しい構図です。そしてどんだけ絶チルを愛してくれてるんだって話ですよ。あと、楽園を追放された者同士、二人っきりの旅立ちという萌え。ユウギリを救うためですので、別に腐ってません

 前述の賢木の意地と優しさとか、薫の血を兵部にやるなんて内心めちゃめちゃ複雑なのを紫穂と葵に気づかれて慰められちゃう皆本とか、抑えていた感情があふれちゃう不二子とか、今回は渋い萌えシーンがたくさん。物語を読み解くのに馴れた人ほど深く味わえる、こういう描写が私はたいへん好みです。

 この作品の登場人物は、実はほとんど全員がそれぞれの立場、それぞれの思いで、兵部に好意を寄せています。子供の成長を祝福し、応援しようとする絶チルの大人たちも、かつては子供でした。そして今だってどれほど大人だというのか。次の世代のためにも面と向かって認めるわけにはいかないけれど、「大人になんかなりたくないし、なりたくてもなれないこともある」という兵部京介という少年の気持ちがわからないはずはありません。
 ヒノミヤはそういうバベルチームの思いを託され、オリジナルメンバーを差し置いてただひとり、絶チル代表として兵部の過去との対決に立ち会う資格を得たのです。この図式も切なくてたまんないですね。



 潜入捜査をするうち兵部たちを憎からず思うようになったヒノミヤだからこそ、最後に裏切る決断をしました。兵部と対等でいたいという男の意地です。しかしその結果については予想外で、大きな責任と負い目を感じています。
 一方兵部の方は、そういうヒノミヤであることをわかった上で、あえてカタストロフィ号に乗せました。ヒノミヤの意地と才覚を甘く見ていたことは彼の失態であり、船の沈没は結局自分の責任だと痛感してます。ちょっとした危険をもてあそんでいたはずが、”あの男”が裏で糸を引いていた・・・・要するに彼は致命的なヘマをしたのです。

 で、その二人の意地と面子と後悔とどうにもならない現実が交錯し、あいつらはああいうカタチで和解。ヒノミヤは謝罪の言葉は一切口にせず―――まあ、ここでは謝っちゃダメですよね。謝って済むことじゃないし、謝って許されようとか思ってないヒノミヤだから兵部も受け入れるわけで。小学校の先生は「謝ってるんだから許してあげなさい」とか言いますけど、私は納得したことないです(笑)。許す許さないという話自体が今はまだタブーであり、そんな二人だから真の相棒として最後の戦いに一緒に旅立てるのです。


 というわけで次回二人はいよいよラスボスとの対決に挑みます。
 ラスボスの人はあれ、もうほとんど正気を失ってますよね。兵部と同じように彼自身も終戦のときに時間が止まったままの亡霊です。その決着の形は・・・・

 スタッフ渾身のシリーズ『THE UNLIMITED兵部京介』も残すところあと二回、最後までよろしくおつきあいくださいませ。