TVアニメ『THE UNLIMITED 兵部京介』 第八話:超能部隊 後編 -Generation ZERO PARTⅡ- ― 2013/03/02
『THE UNLIMITED 兵部京介』
公式サイトはこちら。
いやあ、すごい回です。原作もかなり自信のあるエピソードなのですが、アニメの出来が本当に素晴らしい。これはもうブルーレイ買うしかないでしょう・・・・ほら欲しくなってきた!! 買ってね!!
漫画描いただけの私としては、あのシナリオ・作画・演出・音響には、みなさんと一緒に「おおおおおおおお!!」って言うしかありません。力のあるアニメーターさんの時間・空間把握能力ってあれもう超能力ですよね。素晴らしい仕事、本当にありがとうございました。そしてあんだけ盛り上げといて、ラストでどん底につき落とすというものすごい構成。傑作です。
|
父親の形見の懐中時計は、兵部の気持ちが自由になったときに鎖が切れて海に落下。原作でやりそこなったのを補完していただきました。
ゼロ戦は悪役ではなく、乗り越えるための壁として描いてます。だからパイロットには宣戦布告のあと「翼もエンジンもなしに飛べるだと・・!?」と言わせました。いきさつ上エスパーに腹を立ててはいますけど、根は純真な空の男で、本心では不二子たちが羨ましいんですね。彼もまた、高みを自由に飛び回りたいと願う青年なのです。土壇場で兵部を援護に来るってのは、なかなか愛のある使い方ができたんじゃないでしょうか。
平野さんの幸福な笑い声のあと、終盤の兵部は遊佐ボイス。十代と今の差がすげえ。来週がまた、そりゃもー素晴らしい芝居を披露してくれるんですが、ホントにキャラクターを可愛がって寄り添ってくれてるなあと思います。もちろんどの役者さんもキャラを読み解いて思い入れてくれてるんですが、その優先度がめっちゃ高いというか、そこに向かって技術を集中してるのがビンビン伝わるというか・・・・・・・・・好き。
さて、早乙女が兵部を撃つ動機は、表層的には「予知を食い止めるため」そして「保身のため」なわけですが、それだけではないだろうなとはずっと思ってました。だってあんな凶行に対して、整然と説明つきすぎるじゃないですか。ざっと説明する分にはそれでいいとしても、当時のエピソードを実際に執筆して肉付けした今となってはもっと掘り下げるべきです。
で、彼の立場に立ってよーく考えてみたところ、出てきた結論はかなり業が深くて興味深かったんで、執筆用に準備してたんですが・・・・今回『UNLIMITED』でそこを描く必要が出てきたので、原作漫画に先行して投入、使っていただくことに。
前回も書いたように、早乙女は野心家ではあるけれども悪人ではありません。おそらく貧しいか複雑な家庭環境の出で、飛び抜けて優秀であるにも関わらず、不遇な思いをしてきたのでしょう。「自分の能力はもっと認められるべきだ」と考えていて、社会に理解されない超能力者たちに自分を重ねてもいたはずです。兵部を励まし、力づけた言葉も、本心からだったと思います。
まだゲテモノ扱いだった超能力に目をつけた先進性と、軍という組織をしたたかに利用する手腕はまさにカミソリ。野心こそが本音であることも自分できちんと把握してますが、それを追求することは国のためでもあり、超能力者たちのためでもあるため、後ろめたいところはありません。
ところが、敗戦によって彼の人生設計は完全に挫折。これまで積み上げてきた全てが崩れ去ります。軍に取り入ったことが裏目に出て、戦後は良くて公職追放、超能力に関する実績は根こそぎ占領軍に奪われるでしょう。プライドの高い早乙女は、保身よりも自決を考えたのではないでしょうか。そのとき彼自身にも意外なことに、たったひとつ、あきらめきれないものがあることに気づいたのです。
自分が育てた最高の作品が、手の届かないところへ行ってしまう。誰かのものになってしまう。それを思うときの身を切られるような、焼かれるような、狂おしい痛み。さらに伊・八号の予知では、彼のいなくなった世界でも、「それ」はブイブイ言わせてます。方向はちょっとアレだけど、めっちゃ輝いているわけです。夢破れ、無様に退場する自分とは違い、いつまでも若く美しいまま―――
「あれは…私だけのものだ…!!」
そんなわけで、射殺シーンは漫画にさきがけてこれまでより踏み込み、ああいう描写になりました。ひじょうに『UNLIMITED』にふさわしい、禍々しくも切ないモチーフではないでしょうか。引き金を引く直前の早乙女の狂気の表情とかたまんねえ、ゾクゾクします。あそこはいずれ自分でも描くわけですが、あれを超えられる自信がないので、あのままやるかどうかはまだ未定(笑)。
でもまあ、出し惜しみせずこのアイデアを突っ込んだのは、正しい判断だったと思ってます。超能部隊編をここに入れた猪爪さんの意図、原作を活かしつつ新しい物語に昇華していくシリーズ構成の妙についてはまたのちほど。
次回はいよいよヒノミヤと兵部の対決の続きです。マジでえらいことになってるんで、絶対に見逃さないでくださいね!!
TVアニメ『THE UNLIMITED 兵部京介』 第九話:カタストロフ - Pandora’s box opens - ― 2013/03/09
わあああああああああああああああ―――っっっ!!!
兵部うううううう―――ッッ!!!
・・・今週はこれだけで終わろうと思ってたんですが、それでは私しか楽しくない気がするので解説もやります(笑)。原作者号泣回です。今回もまた素晴らしい出来ですね。
原作といってもスピンオフ作品なので、実際には私は「原案・協力」に近い。かなり無責任に作業の外にいつつ、砂かぶり席からアニメファンの一人として、たいへん贅沢な形で作品を楽しませてもらってます。お客さんとして無邪気に号泣できるってことは、作家として背負った責任や関わった分量が少ないってことでして、ちゃんと「中の人」をやってたらそういうことはできないのですよ。
監督やスタッフさんたちが作品に費やしているエネルギーを見てると、OPで最初にどーんと名前が出ちゃうのは申し訳ないレベル。関われたことがめちゃめちゃ嬉しいし、この作品の素材に選んでもらえたことを大変誇らしく思ってます。
さて、構成がタイトなので、シナリオ会議ではキャラの動きや位置関係にはずいぶんみんなで悩んだと記憶してますが、まあこのシリーズでは割と毎回そんな感じ。最終的には兵頭さんが、見事なバランスの脚本に仕上げてくださいました。
超能力犯罪組織パンドラってのは、<家出した子供たちが作った、自分たちの王国>です。そこに大人が乗り込んできて、全てを取り上げる・・・子供たちの全能感が幼い幻であったことが明らかになってしまう。
つまり今回描かれているのは「空き地に作った秘密基地を工事のブルドーザーが粉砕し、みんなで持ち寄った宝物が泥に散乱する」とか、「駆け落ちしようとした子供が見つかって、二人での生活を夢見て買ったままごとのような生活道具を蹴飛ばされて連れ戻される」とか、「コミケに役人と警察が乗り込んで来て本を片っ端から押収し、『健全ジャンルには手を出さないって約束だったじゃないですか!!』『それは君の決めることではない』つって警棒で殴る」とか、そういうことですね。
沈むカタストロフィ号や海底に消える女王の玉座は何度見ても泣けます。子供たちが見ていた夢の輝きと、そのはかなさが愛おしくて哀しくてたまらんのです。
心が折れてただの子供に戻りそうになりながらも、敵わない敵に最後まで挑み、届かない夢に手を伸ばしながら力尽きる兵部ってのがもうね。
「これが・・・僕らの・・・力だああッ!!」って叫び声に込められた、大人によって輝きを奪われた仲間たちへの思いにも泣けますし、その渾身の一撃が強力で美しくあればあるほど、<しょせん兵部も子供であり、大人たちの体制には力及ばない>という切なさが伝わります。永遠の少年でいることに我々は憧れますが、それは痛々しく、哀しいことでもあるのです。
真木が兵部を叱咤するシーンでは喉の奥から「ぐふううっ!!」って嗚咽が出たし、桃太郎が倒れるシーンでは「くぎゅううっ!!」って声が(そっちはいい)。トドメにあのED。歌っているのは兵部とヒノミヤ、あのアレンジ。歌詞を思い出すとまた泣けてきます。
この回のアフレコには立ち会ってませんが、スケジュールの都合で遊佐さんは時間をずらしての別録りだったとうかがってます。その話を聞いたとき、私はなんかこう、心に来るものがありました。座長の遊佐さんを中心にして組んでいるスケジュールがこの回に限ってそういうことになったのは、偶然ではなく兵部がそう望んだんじゃないかなって気がしたのですよ。あいつはこのエピソードは遊佐さんと二人きりでやりたかったんじゃないでしょうか。
そしてスタジオでたった一人マイクの前に立ち、気持ちを込めて今回の台詞を吹き込んでいる遊佐さんを思い浮かべると、私はそれだけでご飯三杯行けます。遊佐クラスタのみなさんはいかがでしょうね。
あとパティ、ついに喋りましたね(笑)。シナリオ会議ではこれまでみんなして「うーんセリフは削ろう」つってたパティ、この回は突然「ここだ! ここでは喋る!! 事務所にお願いして小林さんお呼びして!!」という空気に。これもパティの意思を感じるなあ。「もう我慢できないから喋らせて! 『デュフフ』とか言わないから!!」みたいな。作り手が愛情を込めてやっていると、キャラが魂を持ったのではないかと思えることは往々にしてあります。
そういえばテレビ東京で放送したとき、裏番組は『タイタニック』後編でした。それも偶然にしてはできすぎているので、これは伊・八号の仕業でしょうか。
というわけで、兵部・ヒノミヤ・ユウギリの安否、そしてカタストロフィ号を失った『UNLIMITED』の航海が向かう先は・・・・・次回をお待ちください!
TVアニメ『THE UNLIMITED 兵部京介』 第十話:遠い楽園 -Original Sin- ― 2013/03/16
『THE UNLIMITED 兵部京介』
公式サイトはこちら。
兵部もヒノミヤもユウギリも生きてましたね!
まー我々としては物語が当然あるべき道筋に沿って進めているつもりなのですが、全く予想のつかない人もいればサプライズがないと文句言う人もいます。私としては美しい構成で主題がドラマチックに描かれているということが重要で、その意味では『UNLIMITED』はかなり高得点な作品だと思ってます。
さて、今回は最終決戦に向け、キャラクターそれぞれが自分の立場と覚悟を確認するというエピソード。派手なアクションはなく、登場人物の心の機微が描かれる回です。
まずもっとも重要なのは、兵部に新しい学ランを持って来たのは誰かということですね(笑)。いやこれ、シナリオ会議で大まじめに議論しましたよ・・・だってクライマックスへの旅立ちはやはり新しい学ランでビシっと決めたいじゃないですか。
でまあ、その辺は注意して見てるとわかるという作りになりました。あの人物は面と向かって兵部に親切にするにはいろいろと立場やいきさつがあるのだけど、それでもやっぱり味方になってやりたいとは思い続けているわけで、「お前の生き方を認めることはできないが、お前がそういう奴だということはわかってるさ」という気持ちを込めた、ささやかな手向けです。まあ、ただ単に主婦の本能として破れた衣装を見たら直すか新調するかしたくなっただけかもしれませんが(笑)。
着た瞬間兵部には贈り主がわかったはずで、それを着てラスボス戦に出発する彼の心情についてはみなさまでご想像くださいませ。
そしてふと気づいたけど意識不明の兵部を全裸にして病院パジャマに着替えさせたのは誰なのか。賢木か不二子が有力ですが、まーこの世界ではテレポートで服替えられるんだっけ。
もちろん賢木は兵部をがっつり診察・治療してて、兵部の方も自分がバベルに助けられたと知った瞬間からそれはわかってたはずです。ということは「お前もいたのかヤブ医者」というのはせいいっぱいの強がりで、賢木がその兵部にとうとう最後まで直接目を合わせないのは、彼の優しさではないでしょうか。
で、次に重要なのが、薫と兵部の対決シーン(いやこっちの方が重要だろう)。
年若い薫には、兵部が背負った過去の重さが理解できません。でもだからこそ明るい未来をまっすぐに追い、大人になることを望む存在です。彼女の説く理想は彼が求めている救いそのものであり、戻りたいと切望する世界の扉なわけですが、提示されればされるほど、兵部は逆に、もうそこには戻れない自分を確認してしまうという。そしてそれでもやはり、その輝きはずっとそこにありつづけていて欲しいと願っているのです。
このシリーズで平野さんに兵部少年を演じていただいた理由がまさにここ。兵部の分身である薫、つまり「傷を負う前の自分自身」からの説得というのは、悲しくて美しい構図ではないでしょうか。兵部の薫への感情は結局のところ自己愛で、薫の中に「そうありたかった理想の自分」を見ているという。そういや兵部が「自分を追放した太陽に恋い焦がれる吸血鬼」であるという話は前にもしましたね。前回兵部はそこにはない太陽に向かって手を伸ばして力尽きてたわけですが、それはまあそういうことなわけで。そして薫のリミッターのシンボルは太陽。
さらに、解り合えない兵部に心を痛める薫を抱きしめる皆本というのは、ヒノミヤの求める理想の形です。ノーマルとエスパーである二人が、そんな垣根を意識することもなく、ただ心を通じ合わせている姿。
サブタイトルの「遠い楽園」というのは、この二つを意味しているわけで、猪爪さんの脚本マジ美しすぎてヤバい。だってスピンオフ作品の主人公二人共が、オリジナルの絶チルを「たどり着けない理想の世界」であるとしているのですよ。そしてその思いが『UNLIMITED』のクライマックスに挑む決意に昇華される・・・・・スピンオフ作品としてめちゃめちゃ美しい構図です。そしてどんだけ絶チルを愛してくれてるんだって話ですよ。あと、楽園を追放された者同士、二人っきりの旅立ちという萌え。ユウギリを救うためですので、別に腐ってません。
前述の賢木の意地と優しさとか、薫の血を兵部にやるなんて内心めちゃめちゃ複雑なのを紫穂と葵に気づかれて慰められちゃう皆本とか、抑えていた感情があふれちゃう不二子とか、今回は渋い萌えシーンがたくさん。物語を読み解くのに馴れた人ほど深く味わえる、こういう描写が私はたいへん好みです。
この作品の登場人物は、実はほとんど全員がそれぞれの立場、それぞれの思いで、兵部に好意を寄せています。子供の成長を祝福し、応援しようとする絶チルの大人たちも、かつては子供でした。そして今だってどれほど大人だというのか。次の世代のためにも面と向かって認めるわけにはいかないけれど、「大人になんかなりたくないし、なりたくてもなれないこともある」という兵部京介という少年の気持ちがわからないはずはありません。
ヒノミヤはそういうバベルチームの思いを託され、オリジナルメンバーを差し置いてただひとり、絶チル代表として兵部の過去との対決に立ち会う資格を得たのです。この図式も切なくてたまんないですね。
潜入捜査をするうち兵部たちを憎からず思うようになったヒノミヤだからこそ、最後に裏切る決断をしました。兵部と対等でいたいという男の意地です。しかしその結果については予想外で、大きな責任と負い目を感じています。
一方兵部の方は、そういうヒノミヤであることをわかった上で、あえてカタストロフィ号に乗せました。ヒノミヤの意地と才覚を甘く見ていたことは彼の失態であり、船の沈没は結局自分の責任だと痛感してます。ちょっとした危険をもてあそんでいたはずが、”あの男”が裏で糸を引いていた・・・・要するに彼は致命的なヘマをしたのです。
で、その二人の意地と面子と後悔とどうにもならない現実が交錯し、あいつらはああいうカタチで和解。ヒノミヤは謝罪の言葉は一切口にせず―――まあ、ここでは謝っちゃダメですよね。謝って済むことじゃないし、謝って許されようとか思ってないヒノミヤだから兵部も受け入れるわけで。小学校の先生は「謝ってるんだから許してあげなさい」とか言いますけど、私は納得したことないです(笑)。許す許さないという話自体が今はまだタブーであり、そんな二人だから真の相棒として最後の戦いに一緒に旅立てるのです。
というわけで次回二人はいよいよラスボスとの対決に挑みます。
ラスボスの人はあれ、もうほとんど正気を失ってますよね。兵部と同じように彼自身も終戦のときに時間が止まったままの亡霊です。その決着の形は・・・・
スタッフ渾身のシリーズ『THE UNLIMITED兵部京介』も残すところあと二回、最後までよろしくおつきあいくださいませ。
TVアニメ『THE UNLIMITED 兵部京介』 第十一話: 嵐の中のふたり -OUTLAWS- ― 2013/03/23
『THE UNLIMITED 兵部京介』
公式サイトはこちら。
残りあと一話です。1クールはやはり短いなあと思いますが、この調子で2クールやったらスタッフがたぶん死ぬので、今回の制作体制ではこの辺が限界だと思います。私自身が中・短編が好きな体質なので、このくらいの分量でピリっとした作品はたいへん嬉しいです。・・・・まあもちろん収入的には長ければ長いほどウェルカムなのですが。
さて、最終回へ向けての最後の仕込みの回なわけですが、今回の見所はサイケOPと日本刀持ってる兵部ですね!
日本刀登場の影には「学ランで銀髪で超能力者で永遠の少年で・・・・あと足りないのは日本刀ですよ!」と最後まで主張し続けた原作者がいたようないなかったような。9話のエネルギーソードでかなり気は済んでたのですが、でもやっぱり似合うよね(笑)。
サイケOPは「サイケwwwwそれがNYクォリティwwww」と爆笑しました。いやカッコイイし笑うトコじゃないんだけど、スタッフのモチベーションの高さと仕込みが嬉し楽しくて、OPとEDは毎回アレンジがあるたびに笑うという。かなりの手間と労力だと思うので、マジでご苦労様です。ホント毎回楽しませていただきました。
ちなみに「地名・国名は変えているはずなのになんで<ニューヨーク>はそのままなんですか」って気になる人がいるようですが、別にいいじゃねえか。東京だって東京だし。
都市名は元々原作で「ニューヨーク」として登場してて、国名だけ「コメリカ合衆国」になってたんですが、アニメに「ロビエト連邦」というのが登場したのを受けて、その後どんどん悪ノリして固有名がアレなことになったという経緯があります。あとNY暴動は原作バッドエンドのクライマックスに直結する事件なので、ギャグ色入るとどうかと思うし。いやでも前作アニメでは名前ちょっと変えてたっけかな・・・? ま、細けえことは気にすんな(笑)。
ユウギリは原作に登場する死の商人「黒い幽霊(ブラック・ファントム)」製のクローンエスパー、そのプロトタイプです。ベースになったのはとある兄妹なのですが・・・・原作読者の方は<ユウギリ>という名前から、それが誰かはだいたいおわかりですね(笑)。多少の不整合はあるものの『UNLIMITED』は原作で描かれざる絶チルの一部であり、完全に地続きだったってことです。
早乙女生存シナリオに関しては、おそらく原作漫画本編でやることはないと思います。でもそれは「あんな話はない」ということではなくて、原作のカメラが回ってないところで早乙女と兵部の二度目の対決があった可能性は充分にあります。ただアニメでやったことをあらためてもう一度漫画で描く必要はなかろうっていう。そもそも漫画の小学生編と中学生編のスキマに収まる外伝というコンセプトで、松田Pと猪爪さんが作った物語だし。
ヒノミヤとユウギリの活躍の場は『UNLIMITED』の文脈の中にあるわけですから、彼らのファンには申し訳ないけれど原作漫画本編にがっつり登場する可能性は薄いと思われます。とはいえ私もあの子たちのことは他のキャラと同じように愛おしく思ってますので、いい機会があればゲストで登場したりしてもらえるといいなとは考えてます。もし絶チルのラストシーンに全キャラのカーテンコールがあるなら、そこにはヒノミヤとユウギリの姿も加えてやるつもりです。
決戦の舞台は「過去との対決」を暗示する冷戦時代の兵器の墓場。絶体絶命な状況でのヒノミヤと兵部のやりとり、兵頭さんの書いた台詞には深みがあって素敵。意訳すると「他のことはともかく、お前にウソをついてたことだけが悔やまれる」「気にすんな、お前と会えてよかった」つってるわけで、いわばここがこの二人の関係の到達点。
ただ正直、この回はディスク収録前にいくつか映像の修整案を私の方からも提出するつもり。特にあそこは二人の心象にピントを絞るべきで、背景の空間や時間を意識させちゃいかんと思うのですよ。具体的には「テレポート妨害チャフを振らせたのは兵部とヒノミヤを舞台演劇的空間に配置するためだったのに、空気読んで待ってる大量の戦闘ルンバ(通称)がパンフォーカスではっきり見切れちゃいかんだろう」という(笑)。
まーぶっちゃけ制作サイドには台所事情というものがあります。そして私の仕事は「原作の良さを調整して取捨選択すること」次に「プロジェクトを支援すること」「イレギュラーな広報役」です。だからこの場で私が「あそこはちょっと・・」とか言うのは反則なんですけど、『UNLIMITED』は品質のアベレージが高く、ディスクの売り上げは今後のためにもひじょうに重要。だもんで今回はお客さんへの「品質上げるから期待してて」っていうアピールね。
スタッフのこの作品への思い入れはOPのアレンジの数々なんかからもビンビン伝わりますが、先日の最終回アフレコでは「もうこれが最後だ・・!!」ってことで、最後の数分ギリギリまで関係者みんな粘って台詞の変更を考えたりして、役者さんたちに「なにやってんですかwww」と呆れられました(笑)。
アンリミでは私も含めた関係者全員が、オリジナルの絶チルと兵部たちを「どこかに本当にある世界」と考えていたフシがあります。だからみんなで寄って集って自分のこだわりを込めつつ、でも「『THE UNLIMITED兵部京介』のあるべき姿」は自然に生まれた感じ。作品それ自体が最初から魂を持ってて、我々はそれをただ掘り出した、そんな感覚ですかね。
もちろんそういう体制を作ったのはプロデューサーだし、脚本は毎回のたうちまわってたし、時間なくて現場は死屍累々ででも品質上げるために監督はかなり追い詰められてたし、作るの楽だったとかそういうことでは全然ないんですけど、作品そのものはとても幸福な子だったと思います。
というわけで次回最終回!! 見てね!!
TVアニメ『THE UNLIMITED 兵部京介』 最終話: 未来へ -LΛST RESOLUTION- ― 2013/03/30
『THE UNLIMITED 兵部京介』
公式サイトはこちら。
最後までおつきあいくださってありがとうございました!! 『THE UNLIMITED兵部京介』ついに完結です。
始まるときには「なんかー、絵とか全然絶チルじゃないしいー」とか言ってくる子に、そんなことは完全に予想してたにも関わらずカッとなったものですが(笑)、そう言いつつもなんだかんだで気になって見てくれてたら、「これはこれで面白い」と思ってもらえたんじゃないですかね。物語というのは順当に追っていく以外にも、こういう仕掛けやバリエーションを味わうという変則的な楽しさもある―――それを知るきっかけになってもらえるといいな。私たちはこの企画を「面白い」と思って取り組んできたし、世の中そう思って作ってない作品なんかひとつもないのですよ。
というわけで・・・・・いい作品になって良かった!! 大勢に気に入ってもらえてほっとした! もー本当に、これが言えるように祈り続けてました(笑)。
たかぎさんのキャラデザインは魅力的なだけでなくめっちゃ効果的に作品コンセプトを体現してたし、五十嵐監督の感性と相まって、絶チル世界を新しい視点で描くことができたと思います。この挑戦を思いついて実行してくれた松田プロデューサー、美しい構成を作ってくれた猪爪さん、いい絵を入れてくれたアニメーターのみなさん、脚本、演出、設定、作画、撮影、音響、制作進行等々、関わってくれた全ての皆さんに感謝です。
準備・制作期間が短かったため、目指した完成度には及ばない部分もあったでしょうが、厳しい条件の中、本来よりもずっと高いところに行けた作品だったと私は思っております。頑張ってくれたスタッフのみなさんには拍手を贈りたい。本当にお疲れ様でした!
怒濤の全12話を経て、未来の大切さをを説く薫の言葉が、兵部を支えてきたキャラクターたちが、彼を少し変えました。このシリーズで兵部が体験したことは、彼の一部になったわけです。
相手に赦しを与えて闇の世界から抜け出すほど兵部は大人にはなれないけれど、「あの男」を殺してしまえば兵部は憎悪という絆で永久に彼と結ばれてしまいます。生きたまま殺す―――復讐は成し遂げる、しかし憎悪という絆は断ち切る、そういう形で早乙女の歪んだ望みをかなえることなく、決着をつけることができたのです。彼を大切に思ってくれる人たちの思いを受け止めること、自分以上にあの日のまま時間が止まっているあの男の醜さへの哀れみで、執着からちょっとだけ自由になれたんですね。
ヒノミヤのその後については、どー考えても彼がこの後二度と兵部やユウギリと会わないということはないでしょう。描かれるかどうかは別として、彼らの次の冒険は必ずあるはずです。
とはいえ、ヒノミヤは絶チル世界の外からやってきて、兵部を理解し、助け、超能力を使い切って、今は役目を終えました。使命を全力で果たしたヒノミヤの気持ちはどこかさっぱりして明るく自由で前向きですが、兵部は一度自分が受け入れた人間に別れを言うのもそれを惜しむのも嫌い。別れのシーンはあいつらしくて切ないですね。去っていくヒノミヤに子供みたいに傷ついて、でもそれを見せたくないという。寂しがってるのが見え見えなんだけど(笑)。
守られるだけの存在だったユウギリは、自分にとって大切な物のために戦う一歩を踏み出しました。彼女はこのあともパンドラと行動を共にしますが・・・・原作本編にいないのは、コレミツなんかと一緒に、虐待されてる他の子供を救うため世界中を回ってるんじゃないかなあ。ソフィー王女は「黒い幽霊」のクローン施設見たあと、やつらと戦うために手を汚す決意をしたかもしんない。人身売買組織壊滅のための特殊部隊とか組織しちゃったりしてね。で、ユウギリはパンドラからそこに出向してる、ってのもアリですかね。そこにはヒノミヤもいるかもしれない。てか、そんな気がしてきた。そしてユウギリのピンチに彼の左目が復活・・・・仕事じゃないとスラスラ出てくるぞ(笑)。
帰国する皆本たちを迎えるのはチルドレン。「物語がまた彼女たちのところに戻ってきた」というラストです。おそらく始まったときにみなさんが思っていたよりもはるかに、絶チルという文脈に正しく沿ったルートだったのではないでしょうか。目的地不明で始まり、ポイントごとに驚きがあり、謎が解け、ゴールしてみればその道筋も目的地も絶チルとしての必然だったとわかる、そんな構成の物語。私が始めに「兵部京介という男の謎をヒノミヤが解いていくのと同時に、『UNLIMITED』という企画の謎を視聴者にも解いてもらう」と言ったのはそういうわけでした。
そんなわけでもう一度、みなさんありがとうございました! 最後のニコ生をみんなと見てて、コメントでちょっと泣きそうでした。スタッフもキャストも、みなさんが楽しんでくれたことで努力と苦労が報われたと思います。
しかし俺たちの戦いはまだこれからだ! 具体的にはみなさんのお小遣いによるソフト売り上げに期待してます(具体的すぎる)。イベントも準備中ですので、ぜひ参加してくださいね!
次のアニメがあるのか、実現したとしてそれは絶チル2期なのか、『兵部京介2』なのか『賢木修二』なのかは今は誰にもわかりませんが、その日が来るよう祈って執筆を続けます。個人的には前作の前日譚を描く「チルドレン結成編」とかにもワクワクしますね。めっちゃ可愛く幼児を演じる平野さん戸松さん白石さんが目に浮かぶわー(*´Д`)。
そんな<レベルの向こう側の、遙かな未来>の夢を見つつ、三ヶ月おつきあいいただいたTVアニメ『THE UNLIMITED兵部京介』ブログ解説を終わりたいと思います。お疲れ様でしたー!
<おまけ>
最終回を見ながらなんとなくチラ裏にラクガキしてた、左目に眼帯をしている謎の男と、アホ毛のある少女。エンディングの7~10年後くらいでしょうか。7年なら絶チル本編のラストにギリギリ間に合いますね(^_^)v